高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
    NPO法人芸能サポートネットワーク 「善の快」、第17回公演
           『樹の村のものがたり』           
 No. 2023-018

 自分が主宰している「万葉集を読む会」の参加者の方3名が「善の快」会員ということで、公演の案内とともに招待していただき、いつものように何も事前に調べることなしに白紙の状態で観劇させてもらった。
 時代物とは言いながら時代を感じさせない、ファンタジーな世界を舞台にしている劇である。
 長屋の住人安兵衛の妻おこんが失踪してから何年も経つ。おこんは狐であったが、安兵衛はそれを承知で結婚していたが、おこんが話すとき最後にいつも「コーン」とキツネの鳴き声が入るため、それを長屋の者から指摘されて失踪したのであった。
 同じ長屋の源兵衛は、つむじ曲がりで人と同調せず、花見に皆が出かける時自分一人だけ墓場で、女の墓の前で酒を飲む。その女の墓に酒をかけてやると生前酒好きであった墓の主お袖が現れ、源兵衛にお礼を言い、ついには夫婦となる。幽霊のお袖は夜だけの夫婦では飽き足らず、昼間も一緒にいたいと言い出し、源兵衛とお袖は樹の村に行く。樹の村は、死者と、死者とはなっていない中間的な生者が一緒に棲んでいるところで、安兵衛の妻であった狐のおこんもそこにいる。
 安兵衛の娘おりんは母親のおこんを恋しがって、源兵衛がこの世に戻って来た時、母親のおこんが樹の村にいると聞いてそこへ連れて行ってくれと頼む。そこで大家の市兵衛やおこんの友人のお蓮などと一緒に源兵衛とともに樹の村に行く。
 樹の村には樹の精霊がいて、それを守っている雷仔、風仔がおり、樹の村には、村の長(おさ)の与作とその妻お米、それに雪女のお雪、烏天狗の玄人とその弟子黒鵜(クロウ=英語の烏crowをもじった名前)、酒ばかり飲んでいる酒呑童女、あまのじゃく、そして、実の正体は妖怪であるが坊主の姿をしたぬらりひょんなどがいて、一騒動が生じる。
 その一騒動の後、おりんの母おこんは樹の村から現実の世界に一足先に戻るが、最後までその姿を現すことはない。母親が現実の世界に戻ったことでおりんも元の長屋に戻ろうとするが、そのためには特別な力を必要とする。その力を得るために、源兵衛はもう元の世界に戻れない死者となることを決意し、大家の市兵衛は実は雪女のお雪と夫婦であったことを告白し、彼も彼女とそのまま残って安兵衛に大家になってもらうことにする。こうしておりんと残りの長屋の一行は無事に現実の世界に戻ってくることができた。
 舞台は、歌あり、踊りあり、駄洒落ありと盛りだくさん。出演者の大半はかなりの御高齢者であるが、発声はよく通っていたし、所作の動きも年齢を感じさせない溌溂としたものであった。
それで遅まきながら、この会のことについてウエブサイトで確認すると、
<平成11年(2004)9月から明治座アカデミー1期卒業生を中心に、都内デイサービス施設において施設利用者の皆さんに生の感動を味わってもらおうとボランティア芸能公演の活動を開始した。芸事を観ること、する事が好きな人やボランティア公演に興味がある40代から70代の「人生を楽しむ」の大好きなメンバーが集まって、NPO法人芸能サポートネットワーク「善の快(「いいのかい」と読む)」を設立し、2006年12月2日に深川江戸資料館小劇場で第1回旗揚げ公演、『人情噺文七元結』を上演。会のモットーは「善行を尽くし、人生を快適に」で、楽しいことが大好きで、人に喜びを提供するのが大好きな仲間たち>の集まりである、とある。
 その第1期生で初回から参加している「万葉集の会」のメンバーでもある「おりん」を演じた黒澤苑さんは、詩吟、講談なども実践しており、年齢を感じさせずに少女役を、よく通る声で演じられていた。
 また同じく「万葉集の会」のメンバーで、幽霊の「お袖」を演じた吉田英子さんは日本舞踊をなされているということを伺っていたので、踊りの場面では彼女の手の所作に見入らせてもらった。
 もう一方の「万葉集の会」のメンバーで、与作の妻「お米」を演じた芳尾孝子さんは、これまでにシェイクスピア劇も演じ、あらゆる分野の舞台に出演しているだけに、芸が板についているのが感じられた。
 そのほか直接には存じ上げていない出演者の方々も、この舞台だけでなくいろいろな芸事を楽しんで長年やってこられたことを感じさえる演技や踊りであった。何よりも出演者全員のみなさんが、楽しんで演じておられるのが一番であった。出演者は総勢18名(内6名が第1回から出演)。
 演技や発声で感心したのは、「ぬらりひょん」を演じた安部淳さん。キャスト紹介を見ると安兵衛も演じていたが、舞台上ではこの二役にまったく気付かなかった。見事な演技であった。
 上映時間は、途中10分間の休憩を入れて1時間40分。
 終演後の舞台上での挨拶で、この会の2代目会長を10年間務められてきた烏天狗の玄人役を演じた岩山孝さんから感謝の挨拶と、大家の市兵衛を演じた鈴木照道さんが3代目の会長として務めることになることが告げられ、早くも来年10月の次回第18回公演の案内がされた。


原案・脚本/安部 淳、演出・構成・補綴/井村 昴
10月28日(土)13時開演、深川江戸資料館小劇場、(料金:3000円)、全席自由

 

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