高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
    Bow第11回公演 『桃太郎異聞』            No. 2023-016

 この話は、3人の子供たち(?)が、おばあちゃんから「たまたま」聞いた「むか~し、むか~しの話」。おばあちゃんもそのおばあちゃんから聞き、そのまたおばあちゃんもそのまたまたおばあちゃんから聞いた話。そのまたまたのおばあちゃんのず~っと昔にはおじいちゃんから聞いたという。この劇は、劇中で猿又、雉比古、犬季を演じた者たちが現在の子供たちとして同じ話を繰り返すことで閉じられる。
「たまたま」が「またまた」と回文になっていることから「股」から生まれたというシモネタが指摘され、登場人物の「猿又」は「サルマタ」につながる面白さになっているような気がした。
「たまたま」が「またまた」と逆さになっているように、この話は、下から読んでも上から読んでも同じになるというフレーズが物語の核心となって、さまざまな下から読んでも上から読んでも同じ「回分(かいぶん)」がキーポイントとなってさまざまな回文が要所要所で飛び出してくる。
そして、この話のそもそもの始まりが「おばあちゃん」ではなく、「おじいさん」ということで、この劇中唯一の年寄である「長老」の登場がこの劇のシンボルとして感じられてくる。
『桃太郎異聞』とあるが、「モモ」なる人物の登場や「オニ」という言葉が出てくるものの、この話は「桃太郎」とはほとんど関係ない、というよりまったく関係ない。むしろ神話としての「出雲神話」を感じさせるものがある。
このことについては、この劇で「長老」役を演じる鈴木吉行がプログラムで語っている「見どころ、役柄について」が核心をついているのでそのまま借用させてもらうと、
<この作品は「桃太郎」をモチーフに出雲神話、鉄文化などを絡めた意欲作です。遠い昔話の形を借りながらも、猿又、雉比古、犬季の友情と葛藤、ヤマシタ王や月夜見ら権力者の横暴、タキガミとヤマガミの二国の外交バランスなど、いつの世にも通じる人間ドラマが魅力です。とりわけ、「マガネ」という未知の物質を手にした時の人々の狂気、移ろいやすい民の感情が見どころです!もう一つ、この作品は頭韻脚韻、回分など詩的な言葉、音に溢れています>
 この劇の内容と特徴を的確に言いつくしており、これ以上言う必要はなく、あとは劇の展開を楽しむだけでいい。
 「モモ」がもたらした「マガネ」が鉄の鋤や鍬を産みだし、一気に生産性が向上し、人々や豊かになる。しかし、マガネは農具だけでなく、次には「剣」を作り出し、その剣を使って他人が作ったものを奪うことを始めるようになる。
 占師で巫女の「月夜見」の策謀でヤマシタ王は殺され、いつも嘘ばかりついている「オオカミ少年」猿又が犯人にされ、犯人ではないと主張するが、彼は日頃から嘘ばかりついているので誰も信用しない。そして彼の唯一の親友雉比古によって殺されることになる。
 神話的な話と、現在に通じるものが交錯して、ある種のメッセージを感じさせる劇であるが、若さが溢れるエネルギッシュな舞台であった。
 出演は、猿又にこの劇団の代表である庄田侑右、雉比古に滝沢亮太、月夜見に大竹一重、長老役に鈴木吉行、王ヤマシタ(B班)に工藤竜太、犬季役に宮路遥香(B班)、ほか大勢。一部ダブルキャストでA班とB班による公演で、ぼくはB班を観劇。
 上演時間は、休憩なしで2時間。


作/亀尾佳宏、演出/栞原秀一、美術/長田佳代子
7月22日(土)13時開演、渋谷・CBGKシブゲキ、
料金:(A席:7500円)、座席:F列12番

 

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