高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
    文学座アトリエ公演 『地獄のオルフェウス』           No. 2023-012

 テネシー・ウィリアムズの劇は、重苦しく、不幸で、陰惨な気持にさせられる。それでも、観ておくべき劇だという気持ちに押されて、一種の義務感のような気持で観ている。が、決して嫌いということはない。観劇後は、重苦しい気分にさせられるものの、観てよかったという気持で劇場をあとにすることになる。また、このような劇はアトリエ公演がよく似合う、ふさわしいという気がする。
 『地獄のオルフェウス』は、今回初めて観るので、その内容もまったく知っていなかったが、劇の半ばくらいになると何となく結末が読めてくるのは、これまで観てきたテネシー・ウィリアムズの作品からの特徴によるものだろう。
 舞台はアメリカ南部の偏見と差別に満ちた田舎町。
 店の主人ジェイブが手術を終えて帰ってくるのを待ちわびている町の主婦のドリーとビューラーの二人が、その店で待っている間のうわさ会話から始まる。二人の会話から、ジェイブとその妻レイディとは夫婦仲がうまくいっていないこと、レイディはジェイブから安価で買われたことなどが何となく分かってくる。
 レイディの父はイタリア移民で、その町ではイタ公と呼ばれ、名前で呼ばれたことはなかった。禁酒法時代に密造酒を醸造販売して繁盛するが、黒人に酒を売ったために農園と家屋全てを焼かれた上、本人も焼け死んでしまう。
 ジェイブが手術から帰ってくる日、保安官の妻ヴィーが流れ者の青年をその店に雇ってもらおうと連れてくる。
 レイディは、将来店を拡大してお菓子屋も始めるつもりでおり、ためらいながらも結局その青年を雇うことにする。
 その青年、ヴァル・ゼイヴィアを雇ったところからその結末が何となく見えてくる。
 レイディはジェイブの言葉から、彼が父親の農園を焼き打ちした張本人であることを知り、拡充した店の開店の祝いに、父親の農園のイメージに合わせた飾りつけをっする。
 その開店の日、保安官がヴァルを町から出ていくように命令する。
 ジェイブはレイディがヴァルと二人でいる場を目撃して、レイディをピストルで撃ち殺し、ヴァルが妻を殺したと町に触れ回り、ヴァルは駆けつけた町の者たちになぶり殺しにされる(この場面は舞台奥での物音と叫び声だけで表出される)。
 話の主筋の脇筋として、レイディにはかつて恋人がいて妊娠したが、その恋人が金持の娘と結婚して捨てられたため、中絶する。そういう過去があって、そのかつての恋人、ビューラーの夫、ピーウィーには店の出入りを禁止しているが、彼が妹のキャロルを迎えに来て店に来たとき、レイディは、彼の子を妊娠した過去の事実をぶちまける。
 差別と偏見の入り混じった狭い町の中の暗い出来事が山積みで、重苦しい気分に押されながら観続ける。
 主筋の主人公レイディを名越志保が激しく熱演、流れ者の青年ヴァルを小谷俊輔、ジェイブを高橋ひろし、保安官を廣田高志、舞台の最初に登場する二人の主婦のドリーに頼経明子、ビューラー(レイディのかつての恋人ビーウィの妻)に金沢映実、ジェイブの看護婦ポーターに赤司まり子、ほか総勢15名の出演。
 上演時間は、途中、10分と15分間の2回の休憩をはさんで、3時間5分。


作/テネシー・ウィリアムズ、訳/広田敦郎、演出/松本祐子、美術/乗峯雅寛
5月9日(火)18時30分開演、信濃町・文学座アトリエ、
チケット:(夜割)4500円、座席:A列23番

 

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