高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
   山口晶代企画・語りライブ 「桜にまつわる物語り」        No. 2023-008

 講談と朗読とは明確な違いを感じるものの、いざその違いや定義、境目を考えるとうまく説明できない。講談と朗読の違いについてはじめて意識したのは、昨年、神田香織の立体講談『チェルノブイリの祈り』(原作/スベトラーナ・アレクシェービッチ)を聞いた時であった。
 今回はじめて「語りライブ」なるものを聴いて一層その思いを強くした。「語り」もまた、いわゆる朗読とは異にすると思った。一口に朗読と言っても、単なる朗読(というものがあるかどうかは別にして)と、朗読劇、あるいは演読、そして今回の「語り」とは、それぞれ微妙に性質を異にするように思えた。そこに、この企画が「語りライブ」と称している意味を感じた。
 今回のプログラムを見ると、その違いを明確に打ち出していた。その違いとは、2番目の演目だけは「朗読」と記され、その他は「語り」となっていた。最初はその記述の違いに気づかなかったが、改めて見直してはじめて気づいた。2番目の出演者だけが台本を持って朗読し、そのほかの出演者は台本を持たず、舞台上では手の所作や軽い所作が加えられての語りであった。
 今回の演目は、ちょうど桜の季節とあって桜にまつわる作品が選ばれ、演目と出演者は、

1.小泉八雲作 『十六ざくら』、語り 山口晶代
2.小泉八雲作 『因果話』、朗読 大橋芳江
3.太宰治作 『葉桜と魔笛』、語り 田中香子
10分間の休憩
4.小泉八雲作 『うばざくら』、語り 清水麻美
5.瀬戸内寂聴作 『しだれ桜』、語り 山口晶代

 朗読と語りの違いを意識したのは、最初の山口晶代の「語り」を聞いた時であった。これまで聞いてきた朗読とは異なった臨場感に満ちていて、はじめての経験だけにインパクトが強かった。
 選ばれた作品はいずれも面白かったが、なかでも、太宰治作の『葉桜と魔笛』が作品の内容の面白さと、田中香子の気品のある語りのうまさと、しとやかな所作に引き込まれて魅せられた。また、作品の内容の面白さで、瀬戸内寂聴作の『しだれ桜』にも、山口晶代の語りでじっくりと堪能させられた。
 休憩を入れても全部で2時間足らずであったが、はじめての「語りライブ」を楽しませてもらった。

 

3月22日(水)14時開演、日暮里サニーホール・コンサートサロン 、
料金:2500円、全席自由

 

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