高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
   劇団MONO第50回公演 『なるべく派手な服を着る』        No. 2023-006

-その理由(わけ)は、「私はいつも忘れられる」から-

 舞台美術がこの劇の構造を表象しているかのよう。その家は、後から継ぎ足し継ぎ足し部屋を増築しているので、家の中は迷路のようになっており、台所へは座敷の押し入れから何度も左右に曲がって行かないとたどり着かないという設定になっていて、間違うとまた元の部屋に戻ってしまう。
 座敷の奥の床の間には、「家庭円満」の大きな掛け軸。それはこの家の主人、舞台には登場しない書道家であった父親が書いたもの。その座敷には昔ながらの卓袱台(ちゃぶだい)と数枚の座布団が置かれている。上手と下手には二階の部屋に通じる昔風の階段。下手の階段の上は傾いた部屋。父親は病に伏してその部屋で寝ている。その父親が危篤状態であるということで、その日、6人の兄弟が父親と同居している長男の勝の召集で集まってくる。先に着いた次男の悟と三男の隆がトランプのゲームをしているところから舞台は始まる。
 長男は独身だが、次男と四男の賢は内縁の妻を連れて来ている。二人の妻がなぜ内縁なのかは、舞台の後半になってその理由が分かる。4人の兄弟は四つ子ということになっており、続いて五男だけが、4人の兄たちとは異なって一人だけ、三文字で一二三という名前。六男の翔(かける)は養子で、齢が離れているせいもあって、幼いときから上の兄弟たちからずっと可愛がられて育ってきている。それは翔がまだ幼いときに彼らの母親が早くに亡くなったためでもあった。四つ子の兄弟と六男の間に挟まれた五男の一二三は、なぜか存在の影が薄く、名前すら忘れられたように呼ばれないまま、いつも兄弟たちから飛ばされてしまう。
 四つ子とはいえ、長男の勝は母親からは「長男は偉い」のだと言い聞かされてきとこともあって、いつも兄弟の中を取り仕切ってきて威張っているが、皆長男の言うことに表向き従順に従っている。
 しかし、父親が臨終に残した告白で、その4人兄弟が実は全員養子で、しかも年齢は次男の悟が一番年長であったことが判明する。ここから、「家庭円満」の崩壊が始まり、これまで悟が抑えてきた気持ちが暴発して長男として君臨し始める。家族関係の崩壊はこの4人兄弟の間だけではなく、六男の翔にまで及び、なぜか今までのような保護されるような存在から淡白な関係へと変じてしまう。さらには、悟と賢の内縁の妻との関係も大きく崩れてしまう。
 悟と賢の妻がなぜ「内縁」の妻のままであるのか、そして兄弟全員が海外旅行を禁じられていた理由がなぜであったのか、はじめて解ける。実子でないことがばれないようにするため、父親が彼らに戸籍謄本を取らせないためであったということが分かる。
 話はさらに続き、五男の一二三までが実は養子であったことが判明する。
 結末は、一旦崩壊しかけた家族関係が何となく修復されるだけでなく、一二三と彼女の関係も元に戻ることで、何となくハッピーエンドな気持で終わる。
 土田英生のワールドは、全くあり得そうにないことで、シニカルな笑いの世界へと我々を誘い込んでくれる。今回もその世界を存分に楽しませてもらった。
 出演は、長男勝に奥村泰彦、次男悟に水沼健、その内縁の妻真知子に石丸奈菜美、三男隆に金替康博、四男賢に土田英生、その内縁の妻に高橋明日香、五男一二三に尾方宜久、その彼女に立川茜、六男翔に渡辺啓太。
 上演時間は、1時間50分。

 

作・演出/土田英生、舞台美術/柴田隆弘

 

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