高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
    劇団文化座公演163 『炎の人』             No. 2023-001

 劇団文化座による『炎の人』の公演記録を見ると、1958年、文化座創立者佐々木隆演出により初演、以後62年、65年に再演され、2020年2月に55年ぶりに再演されるが、この時はコロナ感染拡大の影響を受けて最後の2日間は公演中止を余儀なくされ、千秋楽を迎えることが出来なかった。
 今回、無事に千秋楽を迎えることが出来、主演の藤原章寛が終演後の挨拶に前回千秋楽を迎えることが出来なかったことについて触れられた。
 この劇を観るきっかけは偶然手にしたチラシを見てのことであるが、作者三好十郎と演出者鵜山仁、そしてファン・ゴッホの物語であること、そして公演が文化座であることで、まず安心して観れるであろうという期待からと、劇場も手ごろな俳優座劇場であるということも観劇の触手を押した。
 その期待度に対しては満足点を与えることができるが、内容の重厚さに加えて3時間という上演時間でさすがに疲れてというのが正直な感想である。上演時間が長いから疲れたというより、藤原章寛演じるゴッホの狂気に頭の芯を疲れさせられたと言った方がいいだろう。それは彼の演技の上手下手の問題とか、演技そのものに関して云々するものではない別の問題である。
 画家ゴッホについて知っているようで知らないことの方が多かったのを今回知らしめられた。その第一が、舞台でも最初に繰り広げられる、炭鉱町での伝道師としてのゴッホである。弱者への共感と無償の正義感、そして妥協を知らない一本気さ。その実直なゴッホが娼婦に溺れ、結婚まで考える。そして、自分の絵の完成をひたむきに追及していく姿勢が次第に狂気化していき、ゴーガンとの共同生活と破綻による決別で、ついにはその狂気が彼を精神病院にまで追いやることになる。最後は自殺で37年の生涯を閉じることになるが、残された作品の数は決してその生涯を短すぎると思わせるほど少なくはない。
 キャンバスに描かれた絵や、映像によるアップでゴッホの作品を映し出すことで、この劇の展開の重苦しさが少し救われるような、ホッとさせるものがあった。彼の内面の気持は、舞台上ではなく、音声だけで伝えられる。
 藤原章寛が演じたゴッホは、狂気と頑迷一徹な一途さの中にも、脆くて繊細な心を表出させる演技であった。
 この劇の第二の主人公とも言えるゴーガンには、2020年の鍛冶直人(文学座)から変って、今回は白幡大介が演じた。ゴーガンについて具体的なイメージを持っているわけではないが、自分のイメージとは異なって感じた。そのほかの出演者は一部2020年のキャステイングとは異なっており、総勢で22名の出演であった。
 全体の感じとしては、見ごたえのある舞台であった。
 上演時間は、途中15分間の休憩を入れて、3時間。

 

作/三好十郎、演出/鵜山 仁、美術/乗峯雅寛
1月18日(水)14時開演、俳優座劇場、チケット:5500円、座席:11列13番

 

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