高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
   神田香織の立体講談 『チェリノブイリの祈り』―未来の物語―    No. 2022-026

 神田香織一門会の公演が初めて日本橋社会教育会館で催され、前座の神田おりびあに始まって、今年9月に二つ目に昇進した神田伊織、そして真打の神田織音と続き、中入り後に一門の師匠、神田香織の立体講談『チェルノブイリの祈り―未来の物語―』が語られた。
 その感想は、一口では尽くせぬものがあるが、心に収まり切れない感動が渦巻いて、その余韻が長く心に残るものであった。そして、講談と朗読(劇)との境界が分からなくなった、というのが実感であった。
 立体講談と銘打っているように、単なる語りだけではなく、照明と映像、音響を加えての講談で、それはまさに語られるドラマ(劇)であった。
 ノーベル文学賞を受賞した、作家でジャーナリストのスベトラーナ・アレクシェービッチが、1986年のチェルノブイリ原発事故をもとにした作品を講談にしたものであるが、軍記ものを主体とした講談が時のジャーナリズムでもあったことを再現するかのような現代の「講談」であった。
 原発事故に駆けつけた一人の消防士の若い妻の愛の物語りを通して、当時の原発事故の隠蔽の様子と原子力の被爆の恐さがまざまざと立体的に構成して語られ、このようなことは人びとに広く伝えるべきだということを深く思い至らせた。
 最後に、2011年の福島原発事故が爆撃音の中で語られてこの物語の結びとされるが、さらには現在のロシアによるウクライナ侵攻とそれによる原発事故の恐れが重なって、原発への警告、警鐘として響く。
 語りの時間は、ほぼ1時間であった。
 原発を推進する政治家や、電力会社、そして原発が立地されている地元の人々にこの講談をぜひ聞いてほしいものだと強く思う。
 話は後になったが、二つ目に昇進した神田伊織が、講談会でも最近ではほとんど、というか全くと言っていいほど語られないという「太平記」から、『阿新丸佐渡の仇討ち』を語った。彼の新作も楽しみであるが、このように埋もれた古典もこれからは是非掘り起こしていって聞かせてほしい。
 神田香織一門会の今後の一層の繁栄を願ってやまない。


原作/スベトラーナ・アレクシェービッチ、翻訳/松本妙子
10月22日(土)11時開演、日本橋社会教育会館、チケット:3000円、全席自由席

 

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