高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
    新国立劇場・海外招聘公演、フランス国立オデオン劇場 『ガラスの動物園』 No. 2022-023

登場人物の内面で演じられる室内劇

 久々の海外からの来日公演。このフランス国立オデオン劇場の『ガラスの動物園』も、本来は2020年の秋に招聘されることになっていたのがコロナ感染の影響で21年秋に延期、さらにそれも延期となって今回やっと実現することになったものである。
 『ガラスの動物園』は、国内でも、また英国でも観劇したことがあり、好きな作品の一つでもあって、それをフランス語での上演ということで期待もあったのだが、ただ新国立劇場の中劇場での公演ということで、期待度は半分以上薄れていた。それといのもこの劇場の構造のせいであった。『ガラスの動物園』は、今回の公演の演出者であるイヴォ・ヴァン・ホーヴェの言葉にある、この劇が「登場人物の内面で演じられる室内劇」という性格上、新国立劇場の中劇場では、劇場の構造上、この演出にそぐわないと感じていたからである。ただ、海外からの招聘公演ということあって、商業ビジネス的にも小劇場ではとても採算が取れないであろうから仕方のないことだとは思ってもいた。とは言っても、この劇はフランスでは国立オデオン劇場で上演されているので、必ずしも小劇場的演出ではないとも言える。現に、その舞台美術は、小劇場的なものではなく、拡散的なイメージであった。
 新国立劇場の中劇場は、構造的欠陥(演劇的な意味において)から俳優の台詞が十分に届かないということからマイクが使用されているので、2階の最後部席でも均質的に大きな声で聞こえる。つまり自然な感じがしない。
 普通は言葉が分からなくても字幕を見ることは少ないのだが、今回は肉声でないということもあって、内容はよく分かっていても字幕に頼ることがほとんどであったため、舞台に動きを観るのがかなりおろそかになってしまった。
 大きな劇場向けということもあってか、アマンダやローラの所作にかなり違和感を感じた。特にローラはこれまで観てきたローラの人物造形とは異なる気がして、どこか自分のイメージと違う気がした。主演のアマンダを演じるイザベル・ユペールの演技も、良し悪しは別として自分のイメージとは合わなかった。
 マイナス・イメージばかり書きたててきたが、全体の評価としては実はプラスなのである。要は、自分の鑑賞力が薄弱に過ぎないだけで、観るべきものは大いにあったと思う。
 出演は、主演のイザベル・ユペール以外には、ローラにジュスティーヌ・バシュレ、トムにアントワーヌ・レナール、ジムにシリル・ゲイユの4人。
 上演時間は、休憩なしで2時間弱。


作/テネシー・ウィリアムズ、フランス語翻訳/イザベル・ファンション、
字幕翻訳/岩切正一郎
演出/イヴォ・ヴァン・ホーヴェ、制作/オデオン・ヨーロッパ劇場、
美術・照明/ヤン・ヴェーゼイヴェルト
9月29日(金)13時開演、新国立劇場・中劇場、
チケット:(B席)4180円、座席:2階2列29番

 

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