高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
    演劇ユニット夢桟敷、第15回公演・人情時代劇 『なみだ橋慕情』  No. 2022-022

 演劇ユニット「夢桟敷」では、初演から時代劇を多く上演してきているにもかかわらず、今回の作品は作者(演出者)初の書き下し時代劇という。貧乏長屋に住む娘の初恋を軸にして、「瞼の母」もどきの母と息子の再会話が織り込まれた人情時代劇で、心温まる作品である。
 長屋に住む大工の熊五郎の娘お凛は、「番茶も出花」の18歳、箸が転んでもおかしくてたまらない年ごろだが、このお凛、なぜかいつも小走りに急いでいる。ある日、いつものように小走りに急いでいてなみだ橋のところで転んで足を挫いてしまい、起き上がれないところを通りかかった酒屋の豊島屋の手代、弥七に助け起こされ、家まで送ってもらう。お凛はその弥七に一目惚れしてしまう。
 そのお凛が、呉服問屋伊豆屋から30両の大金を盗んだ疑いをかけられ、お縄にかかる。その30両の金は、実は伊豆屋の娘お染が恋人の次郎吉のために家から黙って持ち出したものであった。
 次郎吉は身寄りがなく、同じく身寄りのない弥七とともに兄弟のようにして豊島屋に養い育てられたが、店の金を盗みだして飛び出して遊び人となっていたが、お染と本気で恋仲となり、改心のため豊島屋から盗んだ金を主人に返すため、お染に工面を頼んだのであった。伊豆屋の丁稚勘助がお染に頼まれ、その30両を次郎吉に渡すのをためらって困っているところに弥七が出くわし、勘助と次郎吉から事情を聞き、その後始末を引き受け、お凛の盗みの疑いも無事に晴れる。
 弥七から次郎吉とお染の関係を認めてくれるように頼まれた伊豆屋の女主人お禄は、弥七の身の上話を尋ね、彼が4つの時に行方不明となった息子の弥一郎であることを知る。弥七もお禄が母親であることを心で認めながらも、あえて親子の関係を受け入れず、上方に酒作りの修行に出かけると言って別れる。
 弥七は上方に発つ前にお凛を誘って芝居見物に行く。お凛は心ウキウキであるが、二人が初めて出会ったなみだ橋で、弥七から上方に行くことを打ち明けられ、「待っていてくれ」という言葉ではなく、「いい人を見つけて幸せになるんだよ」という言葉で、弥七と別れた後泣き崩れる。しかし、団子屋の店の手伝いを頼まれたお凛は、そんなことがあったことも忘れるかのようにして、翌朝には、明るい笑顔で初めての仕事に出かける。
 長屋の住人たちの互いに助け合う姿や、年頃の娘を心配する大工の熊五郎の父親としての親心、弥七と次郎吉の兄弟愛、そして舞台には登場しない豊島屋の弥七と次郎吉の育ての親の愛、弥七の生みの母親の愛など、ほんのりと心が温まるお芝居を満喫した。
 その人情噺の合間に、応援出演の南杏子による南京玉すだれのパフォーマンスや、村岡次栄と選出の妹尾江身子の唐辛子売りのパフォーマンスを織り込んで、劇中「芸」を楽しませてくれるというサービスまである。また、劇の始まる前に小話をした応援出演の柳家小きんが、八百屋の行商人留吉を演じ、見どころに厚みを加えていた。
 公演は、「涙チーム」と「橋チーム」によるダブルキャストで、10日に3公演、11日に3公演、合計6公演で、僕は、劇団関係者の好意で、初日で初演の「涙チーム」を招待で観劇。
 上演時間は、90分。


脚本・演出/妹尾江美身子
9月10日(土)12時開演、日本橋社会教育会館ホール、入場料:3500円、全席自由

 

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