高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
   流山児★事務所公演、宮本研連続上演第1弾、辛亥革命110年・宮崎滔天没後100年
           音楽劇、『夢・桃中軒牛右衛門の』        
No. 2022-019

 宮本研の作品が好きということがまず第一、そしてそれを流山児事務所公演ということでの興味と、『美しきものの伝説』とセット公演になっていることが、この劇の観劇理由。その宮本研の作品を詩森ろばが大胆に脚色したというのも興味であるが、原作を観ていないので比較が出ないのが残念であるものの、それもこの劇を観終わった後では、どうでもよいことであった。演劇は祭りだ、という気分を大いに楽しんだ。
 深刻なテーマを内包しながらも、面白さとおかしみを含んでいる。しかも、最後に考えさせてくれる。
 「桃中軒牛右衛門の夢」ではなく、それをひっくり返した『夢・桃中軒牛右衛門の』というタイトルにその意味を考えさせられる。
 桃中軒牛右衛門こと宮崎滔天が、師範学校の生徒から講演を頼まれ、指示されたタイトルに考え込まされる。自分が追い求めてきたもの(夢)は何であったのか、と。師範学校の生徒は、滔天と孫文の革命思想には民衆の中の95%を占めている「農民」のことが忘れられていると指摘する。そして滔天が問われているのは、なぜ、自分の国の事ではなく中国に目が向けられているのかという問いであった。滔天が足元のことを忘れていることを暗に、鋭く指摘しているのであった。滔天は足元から崩され、考え込まざるをえなくなってしまう。この師範学校の生徒の名前(実は毛沢東)を初演の上演時、その名前を出してはならないと中国のその筋から指示があったという説明が劇中の波の「語り」で挿入されたのに、意外な気がしたとともに驚きであった。
 この師範学校の生徒の指摘で思い浮かんだのは、「幸い」(夢)を足元ではなく遠くに求めるカール・ブッセの詩、「山のあなたの空遠く」であった。
 劇中の自由民権運動の活動家たちすべてに言えることは、足元に目が向いていないということである。そのことが、宮崎滔天の妻・槌とその実姉・波の二人の女の目を通して展開されていくところにその特徴と真意が見える。
 縦糸の主人公が、シライケイタの演じる桃中軒牛右衛門であるとすれば、山崎薫が演じる槌と伊藤弘子が演じる波が緯糸の主人公で、革命思想のシンボルがさとうこうじ演じる孫文であろう。
 演劇が祭りとすれば、革命もここでは祭りとなっている演劇の賑わいがあり、その祭りを出演者と一緒になった気分で楽しんだ。
 出演は、主人公たちに加えて、北一輝の靍本晋規、桃中軒雲右衛門の井村タカオ、その妻浜の石本径代、高等刑事役の杉木隆幸、警察署長の流山児、ほか中国の革命家役など、総勢17名。
 上演時間は、途中10分間の休憩を含めて2時間30分。


作./宮本研、脚色/詩森ろば、音楽/朝比奈尚行、演出/流山児祥
8月13日(土)14時開演、下北沢。小劇場B1
チケット:(10月公演との通し券)8000円、座席:C列3番

 

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