高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
   演劇ユニット・言葉の動物 第20回公演 『三伽噺』(みつとぎばなし) No. 2022-017

『Donor』、『カヨちゃんの子守唄』、『エターナルライフ』

 「言葉の動物」ということが気になって、遅まきながら観劇後にこの団体のHPを確認すると、主宰は、今回の劇の作者でもあり出演者でもある西口千草と西口卓男で、その歴史は2011年5月の朗読劇、『はじめの呼吸とおしまいの呼吸』に始まり、今回が20回目の公演になるという。コンセプトは「言葉(せりふ)を大切にする」団体で、「善と悪」、「幸福と不幸」、「生と死」などをテーマにし、出演者は「演劇ユニット」ということで一般募集による。上演の歴史を見ると、今回の作品『カヨちゃんの子守唄』は、2013年4月に上演されており、他の2つは新作となっている、ということが分かった。
 その新作『Donor』と『エターナルライフ』に共通したテーマは、愛する者をいつまでも自分のそばに残しておきたいという気持ちである。
 『Donor』では、連続殺人犯の女死刑囚を執行直前に誘拐し、死んでしまった愛する娘の脳をその死刑囚に移植する。その父親は元刑務所に勤務していた医師で、娘と父親は親子ということでアパートに入居するが、娘の体は女死刑囚のもので父親より年取っているので、家主には娘が父親の母親で、父親はその息子ということにしている。しかし、脳が娘のものであるために彼女の脳年齢は幼児であるが、体は年取った動きしかできない。
 女死刑囚をさらった犯人の医師を探し当てた刑事がアパートにやってくるが、医師はその刑事を殺して今度はその刑事の体に娘の脳を移植する。今度は、体は若くなったものの、大人の男性が幼児の女言葉をしゃべることになってしまい、医師はそのうちに、娘の年齢にピッタリな子を見つけてやると言ったところで終わり、「生と死」と、「善と悪」、「幸福とは何か」を考えさせる。
 『エターナルライフ』では、余命半年を宣告された夫が、妻一人残して死ぬのを不憫に思い、妻の思いとは反対に、余命を残したまま、自分そっくりのアンドロイドに自分の脳を移植することで妻と永遠に一緒にいてやれるようにしようとする。妻はその考えに反対であるが、実際にはそのプロセスの中で夫はすでにアンドロイドであって、妻はそのことを承知していて、自分の気持を受け入れさせるための反芻であったことが最後に分かると言う仕掛けになっている近未来的な劇である。
 愛するものを残しておきたいという気持ちがそこまでしてあるだろうか、という疑問が強く残る。というよりある種のおぞましさを感じさせる内容で、この二作は、自分には生理的に受け入れ難かった。
 再演の『カヨちゃんの子守唄』は、息子の語りを中心にして認知症となった母親の物語りであるが、シチュエーションの設定に物足りなさを感じたが、テーマとしてはこの劇団の一貫したものがあった。
 出演は、一部ダブルキャストで、「観月組」と「壮月組」の二組による公演で、自分は「観月組」の部を観劇。
 上演時間は途中休憩なしで、3作通して2時間。


作・演出/西口千草
8月6日(土)15時開演、富士見台・アルネ543、チケット:3500円、全席自由

 

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