高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
   話のオチとユーモアを楽しむ「真夏の夜の朗読会」         No. 2022-016

 出演者4人が、それぞれ独自のテーマで語る真夏の夜の朗読会。
 出演者のみが知らされていてどんな演目が語られるのかは始まるまで分からないだけでなく、当日直前になって演目変更もあったという。
 最初は、尼理愛子による横笛演奏に始まって、琵琶の弾き語り、鴨長明の『方丈記』。これは内容も知っているのですぐに分かった。3番目の演目は「ローマの休日」をもじった条田瑞穂作の「老婆の休日」。これは作者自身による朗読を何度か聞いているのですぐに分かった。一人住まいの老婆が、次の動作で自分が何をしようとしていたのか忘れてしまったり、冷蔵庫の中に何を入れていたのかも忘れて全部腐らせてしまい、洗濯機の中に冷蔵庫に入れるべきキャベツなどが放り込まれていたり、身につまされるような話でありながらちょっぴりユーモラスな話で、作者自身の朗読とはまた趣が異なり、その違いを楽しみながら新鮮な気持で聴き入ったが、その内容の面白さに観客席からは何度も笑い声が聞こえてきた。最後の4番目は演奏者のオリジナルで締めた。
 二番手は、声優でナレーターの横田砂選による、エリザベス・テイラー作の『蠅捕り』。母親を亡くして祖母に育てられている少女シルヴィアがバスに乗って嫌いなピアノのレッスンに通っているときに、車中で見知らぬ老人男性に声をかけられる。祖母からは知らない人とは口を聞いてはいけないと忠告されているシルヴィアは無視しようとするが相手はお構いなしに話しかけてくる。そんな彼女に中年の女性が助け舟を出す。レッスンにはまだ時間があるシルヴィは手前でその女性と一緒にバスを降りるが、気が付くと老人男性も降りている。シルヴィアは女性にレッスンの時間に間に合わせるからと言って彼女の自宅に招かれる。始めのうちはタイトルの『蠅捕り』との関連性がまったくなく、どういう展開になるかと思っていたが、その家に不似合いな蠅捕りがぶら下がっている光景が描写されたところで、話の結末が見えた。ちょっぴり怖い話である。全く知らない作家の作品で、話の展開がどうなるのかワクワクして聞く楽しみがあった。作者のエリザベス・テイラー(1912-75)は、その的確な描写とユーモアの感覚・構成でジェイン・オースティンと比較されるイギリスの小説家・短編作家であることが調べて分かった。
 三番目は、菊地真之による芥川龍之介作、『煙管』の朗読。加賀百万石のお殿さまの自慢の金無垢の煙管の話で、これは芥川龍之介の語りの面白さを菊地の朗読力で存分に聴かせてもらった。
 最後は、新地球座代表の倉橋秀美による高橋りりす作、『絹ごし』。2番目の『蠅捕り』と同じような、ちょっぴりサスペンス風な家庭劇。これも最後になるまで「絹ごし」のオチがなかなか分からないところがサスペンス的である。一見、主婦の愚痴を聞かされ続けているような内容で、何でそんな話になっているのか分からないまま、先へ先へと進んでいくが、その主婦の愚痴の内容が頷ける面白さとおかしみが聴きどころであった。
 4つの朗読で、途中の小休止を含めて1時間50分足らずの朗読会であったが、それぞれの朗読者の持ち味を十二分に堪能させてくれた充実した、暑さをしばし忘れさせてくれる朗読会であった。


8月3日(水)18時30分開演、南池袋・フロリダ亭、料金:1000円

 

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