高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
   こまつ座第142回公演 『紙屋町さくらホテル』         No. 2022-015

 『紙屋町さくらホテル』は、1997年の新国立劇場こけら落としの初演を除いて、2001年の同劇場での再演以来、公演のたびに観劇してきたが、いつも決まった場面で涙が止まらなくなる。言語学者の大学教授大島が教え子の遺書の手帳を読み上げる場面である。この場面になるとその手帳を読み始める前にもう涙が条件反射的にあふれだしてくる。
 今回の上演は、2016、7年の公演に出演した俳優たちからもう一度やりたいという声から上演することが決められたという出演者からの声で再演されるという初めてのケースだという。
その前回の公演に出演していなくて今回初めてこまつ座公演に参加したのは、大島先生役の白幡大介と針生武夫役の千葉哲也の二人。その二人の声をプログラムの「the座」から拾うと、白幡大介「演じるには気合いが必要です」、千葉哲也は「この年齢になると、台詞が今日はうまく言えるかなとか、うまく芝居ができるかな、なんて考える人生は、もう辞めようとつくづく思っている。はい、今日も堂々と、楽しく舞台をやってきます!というだけでそろそろいいでしょう」。
 また同じく「the座」に収録されている、「被爆者の方たちのたくさんの手記を、ずっと聖書のように読み続けてきた」という、2000年8月6日の朝日新聞に掲載された井上ひさしの「手記は『聖書』」にも感銘を新たにした。
 初参加者以外の出演者は、神宮淳子に七瀬なつみ、丸山定夫に高橋和也、熊田正子に内田慈、園井恵子に松岡伊都美、戸倉八郎に松岡洋平、主にピアノ演奏を演じる浦沢玲子に神崎亜子、そして長谷川清にたかお鷹。
 この劇は、井上ひさしの作品の中でも繰り返し観たいと思う、数ある劇の中の一つである。
 上演時間は、休憩15分を入れて、3時間15分。


作/井上ひさし、演出/鵜山 仁、音楽/宇野誠一郎、美術/石井強司
7月6日(水)13時開演、紀伊國屋サザンシアター
チケット:7800円(前割)、座席:8列9番、プログラム:「the座」113号、1100円

 

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