高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
   劇団モンスーン公演 『CASE』               No. 2022-006

 密室ミステリーを楽しむ。
 開幕暗転の後、舞台が明るくなると数名の黒い服装の男女がバラバラに寝転がっているのが見える。
 そのうち一人が目を覚まし、周りを見回すが他に誰も起きていないのを見て、再び眠ってしまう(ふりをする)。
 やがて一人、また一人と目を覚まして起き上り、お互い見知らぬ者ばかりで、自分がなぜこんなところにいるのか誰も分からない。そして、自分たちが密室に閉じ込められていることを知る。
 部屋の真ん中にジュラルミンケースが一つあり、最初は爆発でも入っているのではないかと開けるのを躊躇しているが、その部屋を出る手段になるかも知れないと、そのケースを開けると一個の鍵が入っていた。が、そのカギは大扉の鍵穴に入るものの、扉は開かない。
 まったく知らない者同士が閉じ込められていることから、手掛かりとして何か共通項がないかを捜し始めるが、血液型、星座など、共通するものは何もない。
 最初に起き上ったのは、推理小説も書いている作家先生と呼ばれる中年を過ぎた「おっさん」と呼ばれるで、その作家先生が、閉じ込められてどれくらい時間が過ぎたのか分からないものの、誰もおなかがすかないし、トイレなどの生理現象もないことから、馬鹿げた推理だが自分たちは死んでいるとしか考えられないと言う。
 作家先生の推理から、その部屋に閉じ込められた者たち全員が、同日に同じペンションに泊まっていたという共通項をついにつきとめる。
 彼らがチェックアウトしたその日、そのペンションの経営者の奥さんが崖から落ちて事故死したことが分かる。その事故から今は3年たっているが、あれは事故ではなく他殺ではなかったかと、その日の宿泊客である閉じ込められている者たちのお互いの間でアリバイ供述が繰り広げられる。
 そこでその事故が事故ではなく他殺であったことが分かり、犯人が名乗ったことで鍵が開き、犯人を除いて全員が大扉から出ていくが、犯人だけはペンションの経営者であった男と一緒に裏扉から出ていき幕となる。
 このペンションの経営者はかつて作家先生の担当編集者で、奥さんも同じ出版社の編集者で、作家先生とは懇意であった。
 作家先生を含めて全員で7名の者が、どのようにしてその密室に閉じ込められたのかは謎のままであるが、最初に目覚めたその作家先生が他の者が起きるまで寝たふりをしていたことや、ペンションの奥さんの事故死につながるまでの彼の推理による誘導を見ていると、この密室事件は彼とペンションの経営者による共同作戦であったことが伺い知れる(この劇の結末ではそこまであからさまに示さないが、それと感じさせる展開であった)。
 話の展開だけを見ればそれだけのことであるが、密室に閉じ込められた者たちの心理や人間関係、そしてその人間の本性などのぶつかり合い(の演技)がこの劇の大いなる見どころとなっている。
 出演は、すぐ誰にでも突っかかってて行く、自称「バイ」のゲイバーの店主伊藤(栗原智紀)、上から目線で人を見下すような冷たいエリートの井上(菊地真之)、正直で小心者のカメラマン(小濱光洋)、おっさんと呼ばれながらも鷹揚然として舞台の核となっている作家先生(岡本高英)、彼女の尻に敷かれたような男(靍本晋規)や、その彼女、それに井上の婚約者を演じる小島亜梨沙、今井潤子、そして最後にちょっぴり出演するペンションの元経営者の弓削郎を含めて、総勢8名。
 上演時間は、休憩なしで1時間30分。

 

作・演出/栗原智紀
3月31日(木)14時開演、下北沢・小劇場「楽園」

 

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