高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
    演劇ユニット「夢桟敷」第14回公演 『カフェ・クリスタル』   No. 2022-005

 「万葉集を読む会」の参加者Yさんの紹介、招待での観劇。
会場は、現役時代通っていた会社があった、なつかしの人形町。午後から雨で荒れる予報であったが、幸いにも小雨程度で難を逃れることができた。
 劇団、作者など何の予備知識もなく、唯一の頼りはその日もらったチラシにある、作者で演出者の妹尾江身子の「演出ノート」。
 それによると、今回の作品『カフェ・クリスタル』は、20年以上前に書かれた作者の最初の作品だという。そして今回の再演にあたってこだわったことは、「人が誰かを想う時の感情や心の機微をどう表現するか」とも記している。
 20年以上前と時代性が多少異なるのは、今回のスマホの登場であろう。初演ではどうなっていたのだろうか?しかし、スマホは別にしても内容的には20年前という古い時代性は感じなかった。
 一昨年7月に上演予定が長期にわたるコロナ禍で3回の延期を繰り返し、ようやく公演にこぎつけたという。
 劇は、3人の女性が共同で経営するカフェ・クリスタルを舞台にして、その3人の女性のそれぞれの人生の一辺を表出するもので、その中核をなすのは姫橋ゆりが演じるまゆみ。彼女は「演出ノート」によると3年前に「夢桟敷」の舞台を観て感動し、芝居を始めたという。
 まゆみの恋人、夏彦が会社を辞めて友人と新たに会社を起こし、事業のためアフリカに発つ前に、まゆみへの言葉を舞台下手に立ってひとり傍白するところから始まる。その一方、上手のカフェのカウンターに女(まゆみ)がうつぶせ伏して寝ている姿にも夏彦と同様スポットライトが当てられている。
 夏彦が退場した後、続いてまゆみの母親が下手奥に登場し、夏彦がアフリカに去ることをよい機会にして、別の恋人(かつて勤務していた病院の医師)との交際を勧める傍白が語られる。
 ここまで観ている間、この劇は登場人物が一人一人傍白の台詞を語る芝居であろうかと思われたが、やがて舞台全体が明るく照らし出され、久子が現れ、うたた寝していたまゆみを起す。
 舞台の進行の中で、まゆみの恋人夏彦はアフリカで消息不明となり、まゆみはその夏彦を待ち続けていることが知られる。夏彦との再会の約束の場所がこのカフェ・クリスタルであったが、そのカフェが廃業されるところを、約束の場所がなくなることを恐れたまゆみが、学生時代の友人、久子と和子とともに経営を引き継ぎ、老後に備えてこのカフェのオーナーとなるために共同で資金を貯めているのであった。
 そのカフェの中で、3人の女性たちはそれぞれの価値観を異にしながらも、日常の平凡な中に小事件の嵐が吹きこんでくるが、舞台全体としての雰囲気は静穏な感じである。
 最初に登場して傍白を語った夏彦とまゆみの母は最期にも登場して、この二人が亡くなっていて、二人は夢幻能的な語りをしていたことが分かる。
 人にはひとそれぞれの生き方、価値観があり、それがときには自我欲、自己犠牲との葛藤をかかえながらも、心優しくそれを尊重して生きていく、そんな事を考えさせる静かな舞台であった。
 公演は、AチームとBチーム、それぞれ3ステージ、2日間で合計6ステージ、1チーム9名の出演。
 自分が観劇したのは、Bチーム。
 上映時間は、休憩なしで80分。

 

妹尾江身子作、Bチーム演出
3月26日(土)17時開演、人形町・日本社会教育会館ホール、全席自由席

 

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