高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
    劇団俳優座 LABO公演38 『京時雨濡れ羽双鳥』&『花子』   No. 2022-004

 ●『京時雨濡れ羽双鳥』
 途中までの観ている印象は、別役実とはひと味違う不条理劇を観ているようで、シュールな世界に引き込まれていくようであった。
 その不条理さは、橋の下に住む戦争未亡人ゆきと若い巡査下山君との間に交わされる会話での彼女のことばづかいと内容の擬似哲学的深遠さのせいでもあり、さらには彼女の身元が下山君と後から登場してくる戦争で盲目となり零落した元男爵の望月との話が食い違ってくることからも生じてくる。
 最後の方でゆきが、望月の謡いに合わせて舞う能「定家」を観るに及んで、この劇が一種の「夢幻能」であることの思いを強く感じた。
 出演は、主演のゆきに安藤みどり、盲目の元男爵望月に河内浩、若い巡査下山君に辻井亮人ほか、総勢7名。
 上映時間は70分。

●『花子』
 花子の母の言葉からくる風景は、日本というより昔の中国の田舎を感じさせた。
 母が呼ぶハナコが雌鶏のことだと分かった最初の場面では、この劇の主人公はにわとりか、と思わず思ったが、すぐに彼女の娘の名前だと分かり、そこに諧謔性を覚え、最後にはこの劇が狂言であることを知る。
 安藤みどりが演じる母の台詞回しが、声の高低を独特の節回しで発声するのも古雅な趣を感じさせた。
 岩波文庫、笹野堅校訂による『能狂言』(3巻本、昭和20年第一刷、昭和38年第七刷)の下巻にある「集狂言」の部類に『花子』(はなご)が収録されているのを観劇後に確認したが、内容的にはまったく異なるものである。
 出演は、母を演じる安藤みどりのほか、父に河内浩、花子に佐藤礼菜ほか、村の若い衆4名。
 上演時間、30分。

●アフタートークとパンフレットから
 終演後の、この劇のドラマトゥルク、みなもとごろうと、主演の安藤みどりのアフタートークで、この2つの劇について、それぞれ「能」と「狂言」を模した劇であることが説明されて納得した。
 パンフレットに記載されている田中千禾夫の年譜によれば、『京時雨濡れ羽双鳥』は昭和27年(1952年)に新派で上演されているが、俳優座では今回が初めての上演ということである。
 『花子』は昭和25年(1950年)俳優座創作劇研究会で、俳優座で初の自作演出されている。
 演出の森一が、数ある田中千禾夫の作品の中からこの2作を選んだ理由にも興味があるが、ドラマトゥルクのみなもとごろうがアフタートークで語っているように、これから先も俳優座の財産の一つとして田中千禾夫の作品を伝え残していってほしいものだと切に思った。

 

作/田中千禾夫、演出/森 一、ドラマトゥルク/みなもとごろう
3月17日(木)14時開演、劇団俳優座5F稽古場5F
チケット:4000円、座席:1列23番、パンフレット:600円

 

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