高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
    劇団SHOW&GO FESTIVAL 第25回公演 『奥沢ラプソディ』 No. 2022-002

 タイトルを見たとき、何も知識がなく「奥沢」という地名から地方の奥地かと思っていたが、劇場でチラシをもらって、はじめて「奥沢」が世田谷区にある町名だと知った。
観劇後、奥沢について検索すると、奥沢は人口2万8千人ほどの町で、1丁目から8丁目まであり、画像で紹介されている町並みは閑静な住宅地で、世田谷区のなかでも西の方に位置している。
 若い人が多い割に、この劇団は今回で25回目を迎えたということも驚きであったが、この2年間というものコロナの影響で活動も抑制され、そのなかで試みられた動画配信がキッカケで奥沢との縁ができ、「苦境にある飲食店を応援しよう」という企画から、奥沢ゆかりの人々をモデルにデフォルメして今回の劇ができあがったという。
 今回のコロナ禍に関係なく、街中の個人商店はシャッター街で象徴されるように、大型店や郊外のショッピングセンターなどに押されて苦境にあり、古い商店街ほど後継者問題などもかかえて廃業していかざるを得ない状態である。
 今回登場する「奥沢」商店街の店主たちは二代目の若い世代で、いずれも親の後を心ならずも、いやいや継いだ後継者たちが、これまでは対抗していた7つの商店街が結束して沈滞化した商店街の活性化を図ろうと町おこしの企画で音楽祭を毎年行うようになり、今年の開催についての相談の集会の場を舞台にしている。
 昔ながらの床屋のバーバー帯刀とパン工房の春川の二人が音楽祭の開催の主導権に絡んで議論(口論)している場面から始まり、そこへ逃亡した拘留者を捜す刑事の大軒や、音楽祭に出演するグループなどが登場してくる。
 もともとが閑静な住宅地である奥沢にはこれまでに事件らしきものは何もなく、今回の事件の発端も輸入禁止の爬虫類を違法に密輸入した飼い主が不明のなか、この商店街の金物屋の池貝がその爬虫類をあずかったものの逃げられて困っているだけでなく、商品の二重発注で支払いに窮して闇金から金を借りて苦境にあることを、帯刀や春川らに打ち明ける。商店街の店主のなかでも唯一の高学歴を自称する蕎麦屋の串村が友人の弁護士に連絡し、池貝の苦境を救う。
 その一方で、音楽祭参加のグループで本来は女性だけのバンドであるが、メンバー二人が留学で抜けたため、ヴォーカルの葉林の恋人柿坪が二人の仲を秘密にして加わり、その柿坪にリーダーの原科が彼に好意を寄せ、これまでのジャズ演奏から柿坪の主張でロックを加えるということに葉林が反対することで問題を抱え込む。そのうえ、刑事の大軒は葉林とは幼なじみで、三つ巴の恋愛騒動となる。
 その間をぬうようにしてビルの定期検査員と称する人物松波が、商店街の店主側とこの音楽グループ側の間を行き来して、妙なラポールを醸し出す。その親密感を持たせる福島・栃木訛りの方言を話す松波を演じるのは、岩井彰伍。この劇の脚本と演出をしている「祝しょうご」は岩井彰悟当人だと思われるが、ペンネームどうよう、しゃれっけのある演技が面白く、また、正体不明の爬虫類の秘密の所有者が実は松波で、彼は検査員と称してその爬虫類を捜しているらしい、というのが隠れたミステリー、サスペンスとなっているのも面白い。
 台詞のメリハリや演技面では、バーバー帯刀を演じる岡本高英が劇全体をリードする存在感を示していたのが注目された。出演者は、総勢9名。
 せっかくのことなら、この劇を奥沢の町でも上演出来たらいいな、と思った。
 上演時間は、休憩なしで約80分。

 

脚本・演出/祝しょーご
1月26日(水)14時30分開演、下北沢「劇」小劇場、チケット:平日昼割3300円(招待)

 

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