高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
    ひとりクリスティ劇場・別棟もう1度公演 『検察側のしょう人』   No. 2022-001

 昨年8月に一度公演されたアガサ・クリスティーの法廷劇の再上演。前回は機械トラブルなどもあって不完全燃焼であったとか。ただ残念ながら前回は都合がつかず見逃した。
 今回はこの公演中、不幸にもコロナ感染の第六波に突入し、観劇の前日は全国の感染者数が5万人を超え、東京都も1万人超えで連日過去最多を更新中。ということもあって、観劇した日の観客は自分一人。出演者と観客(傍聴人)が1対1の舞台となった。
 このタイトルですぐに思い浮かべたのが、一作年前に公演された『ヴェニスのしょう人』であった。
 「商人」をひらがなにしての「しょう人」で、今回は「証人」をひらがなに置き換えていることから、この二つの劇に共通して言えることが「法廷劇」であるということで、そこに演出者の意図がはっきりと汲み取れ、チケットも前回の『ヴェニスのしょう人』同様に「傍聴券」となっていた。
 『ヴェニスのしょう人』の上演と異なる点は、今回は登場人物を含め、照明、音響も含めてすべてを一人で挑んでいることであった。
 劇は、日頃の不摂生から持病を抱えた肥満の還暦を過ぎて引退を考えている弁護士「私」のところに、一人の若いイケメンが殺人事件の弁護を依頼してくるところから始まる。
 「私」は引退を考えているので一旦はそれを断るが、事件と青年に興味を感じて弁護を引き受けることになる。
 青年の妻が弁護側の証人になるものと思っていたのが、法廷ではなんと、彼女は検察側の証人となって夫に不利な証言をし、青年の有罪判決がほぼ確実視されることになる。この、妻が弁護側でなく検察側の「証人」である立場の食い違いを「しょう人」とすることで表象していると言える。
 有罪判決が確実と思われていたところに謎の女が弁護士の元に現れ、妻に不利となる証拠品の手紙を渡し、それが決定的な決め手となって青年は無罪の判決となる。
 「私」はこの勝利の弁護で弁護士を引退することを決意するが、ここから事態は二転三転して、結末はあらぬ方向へと発展し、今度は青年の妻のために自発的にもう一度弁護引き受けることを決心するところで終わる。
 この結末の二転三転には、原作にはない演出者の新たなつけ加えもあると言う。
 原作を読んでいないだけに、展開の面白さに舞台の進展にぐいぐい引き込まれていって、自分で推理を重ねていく楽しみと面白さを味わいながら観劇、というより、劇に聴き入った。一人芝居ということで、むしろ講談的な面白さを感じた。
 役柄を変じる時は、声色を変え、立ち位置を変えての一人芝居の人物設定で、弁護士の「私」を原作の男性から女性に変えているところから、途中、台詞に不自然なところがあったりもしたが、構成がしっかりとしていてストーリーを楽しむことができた。
 1時間40分の上演時間の一人芝居の大奮闘に、拍手!!

 

原作:アガサ・クリスティー、脚色・演出:ホースボーン・由美
1月23日(日)13時開演、Shakespeare Play House、傍聴券:1500円

 

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