高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
   劇団俳優座公演 『雪の中の三人』                No. 2021-007
 

 シニカル・コメディの作品として知られるが、正体を現すと実は天下の副将軍であったというような筋立てに通じるものがあることから水戸黄門的な、大衆娯楽の痛快さ、爽快さのある楽しく、面白い劇であった。
 名前ではなく尊称である枢密卿として人々から呼ばれている億万長者の大富豪エドワード・トブラーが、自分の会社の広告文応募に偽名で投稿して2位となり、高級リゾートホテルの10日間宿泊の懸賞を得る。
 彼はその偽名で貧乏人に変装してホテルに宿泊するといい家族のものを心配させるが、召使のヨハンに大金持ちの紳士に変装させ、二人は全く知らない関係として同行させることにする。
 一方、その広告文応募で1位となったのは失業中の貧乏青年フリッツ・ハーゲドルン。
 高級リゾートホテルでは貧乏人の服装をしたトブラーが宿泊させてもらえないことを心配し、娘のヒルデがホテルに電話して億万長者が貧乏人に変装して宿泊することを知らせる。
 しかし、ホテルに最初に着いたハーゲドルンがその億万長者としてホテルの支配人や従業員、宿泊客から手厚くもてなされ、彼より遅れてきた貧乏服を着たトブラーは屋根裏部屋をあてがわれ、授業員以下の扱いを受ける。
 トブラーとハーゲドルンはホテルに到着した早々から奇妙な友情関係が生じ、トブラーはファーストネームのエドワードと呼ばせる間柄となる。
 トブラーはホテル側の不当な扱いを次々と受けるが、彼はむしろそれを楽しんで、雪かきや買い出しの使いにいそいそと出かける。
 ホテル側では宿泊客の苦情もあってトブラーを何とか追い出そうと必死であり、そんなトブラーの状況を心配する召使のヨハンは逐一ヒルダに電話で報告する。
 そのことを聞いてヒルダは、家政婦のクンケル夫人を伴ってホテルにやって来る。
 ハーゲドルンはヒルダと出会って一目で恋に落ちる。
 ホテルを追い出されることになったトブラーに同情してハーゲドルンもホテルを出ると、億万長者と思って彼に近づこうとしていたマレブ夫人やスパリウス夫人までがホテルを去ってしまう。
 トブラーはその場の状況から自分の正体を明かすわけにはいかず、戻ってからこのホテルを買収し、自分を不当に扱った支配人やポルタ―などを解雇すると誓う。
 ハーゲドルンはトブラーから招待を受けて邸を訪問するが、そこに待っていたのは立派な服装をしたエドワードであったが当の本人とは知らないままで、ホテルでは金持ちの紳士として宿泊していたヨハンが執事として控えていることにも驚く。
 トブラーがホテルを買収して自分を不当に扱った支配人らを首にするというと、ハーゲドルンは彼らが変装したトブラーを不当に扱ったことは責められるべきだが、高級ホテルに貧乏人の姿で泊まったトブラーにも問題があるとして首にするのだけはやめるように諫める。
 ヒルデの行方も分からず嘆いていたハーゲドルンであったが、彼女がトブラーの娘であることも分かって二人はめでたく結ばれるだけでなく、ハーゲドルンはトブラーの会社の広告宣伝部長としての職を得る。
 一方、ホテルの買収については、ホテルの持ち主が売らないと言っており、買収できないとの報告が入る。
 その理由は、なんと、そのホテルはもともとからトブラーのコンツェルンが所有しているものだから、というオチが付くという、皮肉にして滑稽な物語として終る。
 題名となっている『雪の中の三人』は、ドイツ語の意味では「三人の男たち」となっていて、ちなみに小松太郎の翻訳では『雪の中の三人男』となっており、その題名の由来は、劇中、トブラー、ハーゲドルン、ヨハンの3人が雪の中で雪だるまを作って遊びに興じる場面からきている。
 アフタートークで気づかされたことだが、劇中で作られる雪だるまは日本の雪だるまと異なって三段になっている。
日本の雪だるまはその名の通り「だるま」姿で足の部分がなく二段となっているが、ドイツの雪だるまは頭、胴、足の3つの部分からなっているという。
 出演は、億万長者の枢密卿トブラーに森一、ハーゲドルンに田中孝宗、ヨハンに加藤頼、ヒルデに佐藤礼菜、ハーゲドルン夫人に青山眉子、ホテルの支配人に川井康弘、ほか総勢12名。
 上演時間は、1時間45分。
 アフタートークに、演出家の尾山ゆうな、森一、田中孝宗、加藤頼。(20分)
 アフタートークで、この劇のもとは小説であるが、ケストナー自身による戯曲(それも幾通りかあるそうだが、ナチス政権下で発禁処分で焚書にされ残っていない)と他の戯曲家によるヴァージョンがいくつかあり、長い作品であるが、今回の上演では演出家の小山ゆうなが大胆にカットした台本であることが語られた。

 この劇を観て思い出したのは、シニカルななかに笑いのユーモアを感じさせるケストナーの『人生処方詩集』(小松太郎訳)。
感想代わりに、そこから短い詩を一つ。

 

警告

理想を持つ者は
それに到達しないように 気をつけるがよい
さもないと いつか彼は
自分に似る代わりに 他人に似るだろう

 

原作/エーリッヒ・ケストナー、上演台本・演出/小山ゆうな、美術/乗峯雅寛
3月23日(火)14時開演、俳優座劇場・5F稽古場、チケット:4800円、座席:1列7番


>>別館トップページへ