高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
    新国立劇場2021/2022シリーズ 『あーぶくたった、にいたった』   No. 2021-030
 

 開場から開演までの間休みなく、「オリンピック音頭」などの三波春夫の歌が流れ、最後に1970年の万博の歌が流れて暗転、開幕となる。そのレトロな歌曲が昭和の時代へと回顧に誘った。
 舞台には下手側に別役実ワールドの電信柱と電球、その電信柱から左右に古ぼけた万国旗が吊るされている。舞台中央に淡い白色の蓆と金屏風、そして上手側には地中に半分埋もれて傾いた古ぼけた赤い郵便ポスト。
 この劇を観るまでタイトルは『あーぶくたった』とばかり思っていて、どんな意味かといぶかっていたが、実は『あーぶくたった、にいたった』が正しいタイトルであった。チラシのデザインから下の文句に気づかなかったのだが、劇中、1場の終わりに小さな子供の声で「あーぶくたった、にいたった」と、わらべ歌のように歌われるのを聴いてその意味も分かったという次第である。
 劇は10話からなり、一つ一つの場が独立していながら、全編を通して一つの物語りとして完結させられる。
 1話は、金屏風を背景に新郎新婦の二人の会話。新郎の「夕べの風が吹いている」という会話から、新婦が風を感じないというと、新郎は「風の匂い」だよという。そこから二人の間の会話が、二人の間に女のこと男の子が生まれ、その男の子が幼いときに隣の女の子に石をぶつけて失明させ、高校生になると女子高生を妊娠させ、その処置に困って殺してしまうというふうに二人の会話が妄想的にどんどん飛躍していく。その話の締めに「あーぶくたった、にいたった」とわらべ歌が歌われる。
 2話では、その金屏風の前に新婦だけが座っている。新郎は現れないままで、結婚式を前に失踪したことが分かる。父親はそのことを知っていたが、自分の妻にはそのことを伝えていない。花嫁はその結婚式の場から、草履を残して知らない遠くへと走り去って行き、父親と母親はその草履をもって後を追っていく。
 それから、出社拒否症候の男と女の夫婦の話へと移り、さらにその夫婦のところに、失踪した娘を捜し求めている老夫婦の老婦が行倒れてその二人の家族のところで世話になる。娘が残していった草履を大事にもった老夫婦がその家を立ち去る時忘れかけたところ、若い夫婦はそれを届ける。が、届けた後で、今度は老婦が履き残した草履に気づく。
 若夫婦の息子が成長して高校生となり、公園のベンチで女子高生の妊娠のことを知り、最初の場面の妄想が現実化してそこに表出される。
 やがて若夫婦も老い、異国の地をさまよい、そこで行倒れのようになって、男は自分たちが生きていた証しを残さないように二人を雪で覆いかぶせてくれと神さまに祈ると、最初はちらちらと舞っていただけの雪が、突然、ドカッと大きな音を立てて、大きな雪の塊りが落ちてきて二人を覆い、暗転して幕となる。
 マスクで酸素不足と眼鏡もくもり疲れもあったせいか、途中、何度も眠りに陥ってしまったが、雰囲気的には別役実ワールドに埋没した。
 出演は、若夫婦(男1,女2)に山森大輔と浅野令子、老夫婦(男2と女2)に龍昇と稲川実代子、そして傷痍軍人に木下藤次郎の5人。
 上演時間は。休憩なしで、1時間45分。


作/別役 実、演出/西沢栄治、美術/長田佳代子
12月15日(水)13時開演、新国立劇場・小劇場、チケット:3135円

 

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