高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
   REBORNプロデュース公演・8 『夢の海賊』            No. 2021-003
 

 「死んでしまいたい~」
 客電の落ちる前、サラーリマンの三宅ツトム(ジュン)がそうつぶやいたまま、舞台奥に置かれたテーブルの上で寝入ってしまい、客電が落ちるとダンサーたちが躍り出て、夢の世界が始まる。
 それは夢を忘れた少年であったツトムの夢物語で、ツトムは森の中で動物たちから「殿下」と呼ばれている。
 ツトムが毎日見る夢は動物たちが造る「宝物」で、その宝物は海賊たちから毎日奪われていくが、森の動物たちはくじけずに毎日毎日、殿下のために宝物(夢)を作っていく。
 しかし、その夢の根源が今は枯れ果てようとしている。
 その夢の世界に現実の世界が割り込んでくる。
 「死神」である生命保険会社の社員神崎しのぶ(君島久子)と「疫病神」(林瑠璃)、「貧乏神」(江原泰成)が登場し、夢の中なので彼らは動物とも言葉が通じ、「猿のからくり屋」(鹿目真紀)を手なづけて現実世界との接点として働かせる。
 ツトム少年が夢を見なくなったのは「マクラ姫」(榎本奈里子)がさらわれて消えてしまったから。
 現実世界のツトムは営業接待のカラオケの席で、演歌を歌って裸になれという課長(海賊の船長役を兼ねるムンスが演じる)の命令を拒否したため主任への昇任のチャンスを失おうとしていることから、自分が死んでしまいたくなった現実の世界と夢の中で対峙する。
 夢の根源が枯れ果てようとしているのと合わせて、海の水が引いてなくなってしまい、海賊たちの船も漕ぎ出すことが出来なくなっている。潮の引いた後の海辺に「暇猫」(深沢誠)が潮干狩りに出かけるが、掘り出せるものは夢のかけらのガラクタばかり。
 動物たちも「殿下」のための宝物(夢)を作ることがなくなる一方、猿のからくり屋は人間たちの要求に従って昇進用の「椅子」や「スーツ」などを拵える。
 ツトムは「マクラ姫」と再会するが、海賊の船長のためそれも一旦阻まれるが、ツトムとマクラ姫は一生離れないと再び結ばれ、枯れようとしていた夢の根源がよみがえる。
 ツトムは課長の命令を受け入れ、主任の地位を求めて演歌を歌う決心をする。
 その間の出来事として、「死にたい」と思っていたツトムは死神に取り付かれて死にかけたりもするが、そのような現実と非現実の交錯する夢の世界が閉じられ、舞台は最初の、三宅ツトムが寝ている場面に戻る。
 電話が鳴り続け、目を覚まして起き上がったツトムが営業マンに戻った彼としてその電話に応答するところで舞台は暗転し幕となる。
 現実と夢が交錯する劇で、夢を精神分析的に見れば人それぞれに思いを抱くことができる多様性をもっているが、舞台の進行の中ではそのような夢解きの分析的な解釈は抜きにして楽しんだ方が面白い。
 登場人物としての出演者の感想としては、神崎忍と死神役の君島久子が舞台映えのする大きな演技で存在感を示し、わき役としての「犬の大将」役の調布大のダイナミックでおおらかな演技の楽しさ、板橋演劇センターなどでシェイクスピア劇に数多く出演していて最近ではREBORN公演の舞台にも続けざまに出演するようになった「暇猫」役の深沢誠のおっとりしたとぼけた味わいの演技が気分をなごませてくれる。
 出演者は、ダンサー4人を含めて総勢25名。
 上演時間は、1時間45分。

作/横内謙介、台本構成・演出/PARK BANGIL
2月4日(木)14時開演、座・高円寺2、料金:5000円、座席:G7


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