高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
   劇団民藝公演 『集金旅行』                   No. 2021-028
 

 2013年初演の後、地方公演を重ねて8年ぶり東京での再演。
 井伏鱒二の小説を舞台化したこの作品の初演を観ていなかったので、この再演はうれしかった。
 井伏鱒二の小説には、なんともいえないユーモアがあり、ときどき無性に読み返してみたくなることがある。
 井伏鱒二の、地味なその「笑い」をどのように舞台化して感じさせてくれるか楽しみであったが、その楽しみを十二分に味あわせてもらい満足した。
 タイトルに『集金旅行』にあるように、この小説は舞台が次々と移動するので、どのように舞台化されるかも興味の的であった。
 発端の荻窪のアパートの場から、岩国や、車中、下関、福岡への集金旅行でつぎつぎと場面が転換されるが、舞台では場面転換の暗転のあい間、主人公の十番さん(ヤブセマスオ)がナレーションで展開を語ることで舞台装置転換の時間をかせぎ、その舞台装置の転換に興味がそそられた(地方公演でもこの転換は可能であったのだろうかと気にかかった)。
 この原作を読んでから長くたっていて細かい点ははっきりと覚えていないが、この舞台では原作との違いとして始めと終わりにヤブセマスオを訪問する太宰治が登場し、特に最後の場面は原作とは異なり、七番のコマツランコさんがひょっこり荻窪のアパートに戻って来て、十番さんが東方面の集金旅行に俄然意欲を燃やすところで終わり、そこに地味な笑いを覚えさせて、一種のカタルシスを感じた。
 十番さんのヤブセマスオは名前からもすぐに察せられるように井伏鱒二その人で、彼を演じた西川明が生き写しのようであったのがとても印象的であった。その相方を務める七番さんのコマツランコさんを演じる樫山文枝との集金旅行の道行きがこの舞台の見どころとなっている。
 太宰治役だけがダブルキャストで、自分が観た回では塩田泰久が演じ、総勢15名(ダブルキャストを数えれば16名)の出演。
 上演時間は、途中15分間の休憩をはさんで、2時間45分。

 

原作/井伏鱒二、脚本/吉永仁郎、演出/高橋清祐・中島裕一郎、装置/堀尾幸男
11月24日(水)18時30分開演、俳優座劇場、夜チケット:4400円、座席:4列18番

 

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