高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
   新国立劇場2021/2022 シーズン 『イロアセル』        No. 2021-027
 

 新国立劇場フルオーディション企画の第4作目で、今回は初めて現在活躍中の作家の作品。
 事前知識も何もなかったので作者の倉持裕の名前も今回初めて知ったが、何よりもカタカタのタイトル『イロアセル』が何語で、どんな意味があるのかと興味と関心をもった。
 観劇後、『イロアセル』のプログラムの中で、フルオーディションの第1弾『かもめ』を演出した鈴木裕美と倉持裕の対談、「『イロアセル』は10年前、東日本大震災が起きた直後にSNS上で広まった言葉の匿名性について書いた本」と倉持が語っているのを読んで、イロアセルを辞書で引くと、「色褪せる=古くなって色がさめる」(広辞苑)とあり、劇の内容と重なって「イロアセル」の劇的意味も何となくつかめた気がした。
 本土と切り離されたとある島、この島の人々の言葉にはそれぞれ固有の色がついていて、しゃべった言葉が機器ハムスターによってこの言葉の色が増幅拡散され雲となって、誰が何を考え、何を言ったかが分かってしまうので、だれもが本音を吐き出せない。
 そこへ本土から、その島に新たに造られた刑務所に囚人と看守がやって来るが、不思議なことにその刑務所の中だけは言葉に色が出ない。
 そのことを知って島民が一人ずつ囚人に面会にやって来て囚人と語るが、その言葉が色に出ないことで会話が拡散される恐れがないことから、自分の思い、本音が自由に語られる。
 しかし、彼らの言葉は囚人のアナログ手段である「手紙」によって広まってしまい、結果的に囚人が島の権力を握ってしまうことになり、看守も本土に召喚され、囚人は刑務所の檻の中で自由をほしいままにする。
 言葉が色によって共有されていたことによって秘密が秘密として保たれていたのが、囚人の手紙によってそれが明るみにさらけ出されることによって、島民の間の関係が崩壊していく。
 カンチェラの選手アズルが、その根源である囚人の指を切ることで手紙を書くことができないようにすると、言葉の増幅拡散機の独占企業プルプランの工場が火災で燃え、それを契機に島民の言葉の色も消えていく。
 それまで刑務所内で自由を謳歌していた囚人は、いまでは訪れる者もなく食べるものにもこと欠くようになるが、本土から再び看守が戻って来て、囚人を釈放する。
 釈放された囚人の行く手に島民たちが手に手に棒を持って騒いでいるのを見て、囚人は自分が襲われるのではないかという恐怖から看守に同行を頼むが断られる。
 看守は、囚人が去った後、檻の中のテレビをつけると、おりしも、アズルがカンチェラの試合で優勝したシーンで、その歓声が島民の喚声と重なって、囚人が襲われるたかどうかわからないままに終わる。
 言葉の色は、SNS時代の比喩、表象としての寓意として感じられる。
 出演は、囚人に箱田暁史、看守に伊藤正之、プルプラン社の社長ポルポリに山崎清介、カンチェラ選手のアズルに永田凛、同じくライに福原稚菜、カンチェラ審査員エルデに高木禀、前科のある女ナラに東風万智子、町長のネグロに山下容莉枝、町議会議員のバイツに西ノ園達大、グウ電子社長のグウに永岡佑、総勢10名。
 上演時間は、休憩なしで2時間10分。

 

作・演出/倉持 裕、美術/中根聡子、映像/横山 翼、音楽/田中 馨
11月23日(火)13時開演、新国立劇場・小劇場、チケット:3135円、座席:RB列30番

 

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