高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
   名取事務所25周年記念公演第3弾 『女は泣かない』         No. 2021-025
 

 この劇の翻訳者シム・ヂョンによるプレトークで、韓国はトップクラスのデジタル先進国でデジタル性犯罪も世界一であると前置きして、台詞の間における「余白」と、劇の展開の「重層」がこの劇の特徴であることを説明し、余白の間における沈黙の時間を考えることに神経を集中してほしいと語られたが、まさにその通りの劇であった。
 沈黙の余白が重苦しく、劇の展開は時間軸と空間軸の過去と現在が同じ舞台上で同時進行し、交錯することで、この劇を重層化している。
 14歳の時に養父によって性的被害を受けた「女」が、その心の傷を克服したことを売りにして今では売れっ子のカウンセラーとなっているが、その彼女の夫が連続性犯罪の嫌疑をかけられている。
 女と夫の出会いの過去と現在が同じ場面上で交錯し、被害者の女性が場面、場面に夢遊病者的に舞台上を浮遊し、二人の刑事が女の夫に嫌疑をかけて女と接触するが、女は夫のアリバイを主張する。
 女は母と養父を訪ね、養父にはなぜあんなことをしたのかと問い詰め、母親には、あのとき、なぜ止めてくれなかったのかと問い詰める。
 養父はそんなことがあったことも忘れたかのように受け流し、母親は泣いて黙るだけであった。
 女は母親と養父を訪ねたことで吹っ切れたようになり、自分が過去のトラウマを引きずっていることを受け入れ、夫のアリバイ証言を覆す決心をする。
 しかし、この劇では結論を出さないまま幕を閉じる。
 テーマの重苦しさと、余白と重層化によって1時間20分という上演時間がとても長く感じられた。
 この問題は韓国だけの問題ではなく、日本でも、また世界各地においても共通の問題であるが、この劇で特別に感じたことは、韓国の根底にある「恨」「怨」(ハン)の心情であった。
 出演は、女に森尾舞、女の夫(現在)に斉藤淳、女の夫(過去)に友野翔太、被害者の女性に菊池夏野、女の母に高間智子、養父に藤田宗久、刑事1に八柳豪、刑事2に小泉将臣。
 上演時間は、休憩なしで1時間20分。

 

作/イ・ボラム、翻訳・ドラマトゥルク/シム・ヂョン、演出/扇田拓也
11月8日(月)15時開演、下北沢・小劇場B1、チケット:3500円(シニア)、座席:B列1番

 

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