高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
   劇団俳優座公演 No. 348 『面と向かって』            No. 2021-024
 

 これから何が始まるのかと思わせるお祭り騒ぎのような冒頭の場面は漫画チックで意表を突くが、場面転換して住民会議の主催者ジャックが登場してから、住民会議の参加者が一人ずつ登場して彼がその人物を紹介していくところからは趣ががらりと変わってシリアスなさまへと一変する。
 展示会施工会社のバルドニー社で働くグレンが暴力沙汰で会社を首になり、その腹いせに自分の車を社長の新車ベンツに追突させたうえ、社長の家の一部を破損させてしまう。
 冒頭の場面は、グレンが社長の車に追突する場面をコミカルに描き出したものだったことが分かる。
 住民会議は、グレンがなぜこのような事件を起こしたかを解明するために、彼の母親、友人を一方の席に、もう一歩の側に会社の社長とその妻、そしてこの会社の従業員たちがすわり、あわせて9名が参加する。
 この住民会議で無事に解決できなければグレンは裁判所に送られ、刑務所に入ることになる。
 ジャックは、グレンが起こした問題に関連して参加者一人一人から意見を問いただしていくが、そこから思わぬ方向へと話は飛んで行き、被害者の立場であるこの会社のオーナー社長であるバルドニーに問題が飛び火していくだけでなく、この住民会議の参加者一人一人の問題があぶり出されていくことになり、スリリングでサスペンスを伴った展開となっていく。
 この展開を見ていて感じたのは、陪審員裁判の『12人の怒れる男』との類似性であった。
 移民社会であるオーストラリアの人種問題を含め、現代社会が抱えるさまざまな問題が浮き彫りにされる。
 住民会議という「仲裁人制度」そのものが耳新しく、まったくなじみのないものであるが、この劇はこの仲裁人制度を通して現代社会が抱える問題を描き出しているという点において、めずらしい。
 作者は、2018年に俳優座が上演した『女と男とシェイクスピア』のデヴィッド・ウィリアムス。
 出演は、仲裁人ジャックに塩山誠司、グレンに辻井亮人、グレンの母に瑞木和加子、グレンの友人バリーに松本征樹、バルドニー社のオーナー社長のバルドニーに加藤佳男、その妻グレアに佐藤あかり、バルドニー社の現場監督リチャードに小田伸泰、セルビアからの移民ルカに藤田一真、バルドニー社の秘書ジュリーニ荒木真有美、経理担当のテレーズに天明屋渚の10名。
 上演時間は、休憩なしで2時間。

 

作/デヴィッド・ウィリアムソン、翻訳/佐和田敬司、演出/森 一、美術・衣装/加藤ちか
11月7日(日)14時開演、俳優座劇場、チケット:5000円、座席:6列3番

 

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