高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
 占子の兎 座布団劇場 番外編十人会 久保田万太郎・其の三 『おみち』、『加勢』、『十三夜』 
No. 2021-015
 

 明治というよりは江戸時代の庶民の生活を感じさせる久保田万太郎の芝居の世界が好きだ。
 「占子の兎」ではこれまで「落語ショー」を中心にした座布団劇場であったが、御多分に漏れず新型コロナの影響で、多人数出演の密を避けるために久保田万太郎の芝居に切り替えて今回がその3回目となる。
 前回までの2回の公演は自己都合で観ることができず、今回が初めての観劇。
 「座布団劇場」の名前が示す通り座布団に座ったままの高座での芝居で、落語を聴いているのと同じような感じで、登場人物を演じる役者のせりふ回し、表情、仕草が見どころとなる。

その1 『おみち』
 嫁姑の世間話を女中のお仲から聞かされたおみちが亡くなった養母との関係を思い出す。
 養母との関係は辛い経験ばかりであったが、病気で寝付いてからの養母はおみち一人に頼るようになり、最後はおみちに感謝して亡くなり、おみちはその言葉だけでもう一度養母の世話をしたいと思うようになる。
 その養母の月命日の墓参りで出戻りのお喜美と出会い、そこにやってきた夫の濱吉と3人で料亭で食事を共にする場面で終わる淡々とした運びの短い芝居であるが、登場人物を演じる出演者の語り口の世界にぐいぐいと引き込まれていった。
 出演は、おみちに槇由紀子、女中のお仲に藍ひとみ、お喜美に中島佐知子、濱吉に小泉武也。

その2 『加勢』
 今では浅草一の支那料理屋の主人となった喜太郎が、昼日中、仲見世の通りで幼馴染の友吉に出会って、喜太郎の昔の身分である「チャン蕎麦」と大声で呼ばれた恥ずかしさから、玉水一家の生き残りの親分アバタの安と出会ったのを幸い、友吉を懲らしめてやろうと彼に加勢を頼む。
 しかし、話が思わぬ方向まで進んで大袈裟になり、喜太郎は戸惑ってしまうが、アバタの安が一人合点に友吉に喧嘩をしかける。
 友吉が危うくなったところで喜太郎は安につかみかかっていき、安が人違いだと叫ぶところで終わる。
 話の筋はごく単純で、芝居の時間も10分足らずであるが、喜太郎が安の意気込みに押されてのっぴきならぬ状態になっていくその過程の表情、仕草、会話が聴きどころ。
 出演は、喜太郎に薄井啓作、アバタの安に白浜健三。

その3 『十三夜』
 昭和22年、NHKラジオドラマのために樋口一葉の作品『十三夜』を脚色したものだという。
元士族の娘おせきは、高級官吏の原田に望まれて結婚したが、子供が生まれてからは原田の冷酷無情な仕打ちに耐えかねて、ある夜、子供を残して無断で実家に帰る。
 おせきは二度と戻らぬ決心であったが、父親の斉藤主計に諭されて戻って行く。
帰る途中に拾った俥屋が、幼馴染の高坂録之助。
 録之助はおせきが嫁に行ってから人が変ったように放蕩三昧の生活をするようになった話を語るが、その話から二人はお互いに思いあっていた仲であることが察せられる。
 二人の関係は言葉には出されず、大きなドラマはないものの、心の中に静かな動揺と淡い気持ちを残す芝居である。
 原田せきに新宮里奈、その父斉藤主計に今井耕二、母もよにしみず由紀、俥屋の高坂録之助に四宮勘一。
 心の中に静かなさざ波がかき立つのを感じながら、清爽な気分に浸って「芝居小屋」を後にすることができた。

[注] 各演目のあらすじは、当日チラシと一緒に配布されたプログラムを参考にしている。


久保田万太郎作品より、構成・演出/今井耕二
主催・企画・制作/占子の兎、7月1日(木)14時開演
阿佐ヶ谷ワークショップ、木戸銭:3000円


>>別館トップページへ