高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
    劇団テンアンツ・第5回東京公演 『コオロギからの手紙』      No. 2021-014
 

 マエセツで茶の間で見るつもりで気楽に見てください、芸術作品でも何でもなく楽しく見てもらう娯楽劇で、笑って、泣いて見てもらう劇です、上演時間は3時間を超えますが体感的には2時間ぐらいにしか感じないと思います、とあったがまったくその通りの舞台であった。
 終演後時間を確認すると、何と3時間半の上演時間であったが、そんなに長く感じなかった。
 マエセツ通り、笑いあり、涙ありの劇であった。
 ストーリーは結末が予測できる展開であったが、ここで終わりと思っていたのがそうでなく、最後で心温まるものがあり、作者の登場人物への温かい思いやりと人柄を感じさせ、気持ちよく観終わることができた。
 話の結末を明かせばこれから劇を観る人の興を殺ぐことになるかもしれないので、話の筋はここでは明らかにしないが、劇の内容と展開は話の筋が分かっていても面白みが消えるというヤワなものではないが、結末を知らない方がやはりずっと面白いと思うので、観てのお楽しみということにしておこう。
 この劇のタイトルになっている「コオロギ」とは、父親を幼くして亡くして小学校にも行けず、字の読み書きができず、結局はヤクザの道しかなかった主人公の名前が「神木雄司(こうのぎゆうじ)」であることから、親しい者に対しては通称「コオロギ」の名前で呼ばれていたことからきている。
 そのコオロギが、スリから財布を盗まれるところを助けた縁から、小学校の先生聡子から文字の読み書きを習うようになる。
 コオロギはヤクザとは言いながらも心が優しく、行きつけのラーメン屋の娘小百合からも一方的に愛されているだけでなく、聡子の財布をすったスリの理子も赦すだけでなく、助けてもやる。
 大体予想がつくお決まりのコースで展開していくが、脇筋も面白く、それを演じる役者たちの演技も面白いので、ほんとに気楽な感じで、茶の間で見ているようなリラックスした気分で楽しんだ。
 この劇の作者で演出者でもある主人公コオロギを演じる上西雄司の台詞使いと人柄が柔らかで嫌味がなく、劇の展開と同じく人を惹きつける魅力があるのがすごくよかった。
 小学校の先生の聡子を演じる古川藍も、コオロギが評言するが如くその声は鈴を鳴らすようで、笑い声がすてきで魅力的だった。
 コオロギの親分、代漸貞夫を演じる堀田眞三も貫禄十分、しかも人情味を感じさせるが、その息子でワカの代漸豊を演じる贈人は、強面と憎々しさを体全体から発散させていて凄みがあった。
ラーメン屋の娘小百合を演じた徳竹未夏をはじめ、サブ・ヒーロー、サブ・ヒロインの面々もそれぞれのキャラクターを十二分を超えて楽しませてくれ、笑わせてくれた。
 所要登場人物の一部と脇役はダブル、トリプルキャストで、「龍」と「虎」のチーム編成での上演で、自分が観たのは「龍」のチーム。
 あっという間の3時間半であった。


作・演出/上西雄大
6月29日(火)13時開演、下北沢・小劇場B1、チケット:4500円、全席自由席


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