高木登 観劇日記2021年別館 目次ページへ
 
    講談 『沖縄戦―ある母の記録―』                No. 2021-013
 

 前座の神田伊織による『大久保彦左衛門、鳶ケ巣砦攻撃初陣』の軍談で始まり、講談古典を十分に味わう。
 大久保彦左衛門は、一心太助との話など講談に欠かせない人物の一人であるが、軍談は内容もさることながらそのきらびやかな語調の音感が心地よい。
 織田・徳川軍と武田軍の長篠の戦いにおける徳川軍の武将酒井忠次による武田方の鳶ケ巣砦攻撃で、16歳の大久保平助(通称大久保彦左衛門)が初陣の活躍を飾る話で、わずか10分足らずではあったが、神田伊織の語りの調べにとっぷりとつからせてもらった。
 
 続いて神田香織による新作講談『沖縄―ある母の記録―』。
 神田香織が二つ目に昇進してプロとして初めて取り上げた講談が『はだしのゲン』だったと言う。
 戦争体験のない香織であるが、戦争体験者の語り部が年老いてだんだんとその体験を伝える者がいなくなっていくとき、講談はまたとないその語り継ぎの手段であると感じた公演であった。
 神田香織は35年前から『はだしのゲン』を語り続け、原爆、東京大空襲の語り部として語り継ぎ、「戦争三部作」の仕上げともいえる沖縄戦をこのたびはじめて取り上げてのネタおろし。
 沖縄戦について取り上げることは前々から構想にあったもののそのきっかけがつかめないでいたが、昨年11月に99歳で亡くなった沖縄戦の語り部安里要江(あさととしえ)さんの自らの体験談を記した『沖縄戦ある母の記録』とそれを基にした映画『GAMA月桃の花』を見て、「歴史を文化として語り継ぐ遺産継承、文化の3要素とは、作る人、観る人、保存する人、この中でどれか一つ欠けても文化は成り立たない」(チラシの文章より)という思いがこの講談を産み出すことになった。 
 講談は軍談と言われる戦争ものがそもそもの始まりと言えるが、単なる古典の継承だけでなく、先の戦争の体験を伝え残していくことも新たな道というだけでなく、伝えられていくべき貴重な文化の時代の証人でもあると実感させられた。
 今回はネタおろしとしての初公演であるが、神田香織の挨拶でも述べられたが、これから先、この沖縄戦の講談はさらなる肉付けがなされ、膨らんでいくことが期待される。
 次世代の者たちへの語り部として、伝え残していってほしい。 
 語りの時間は約40分。

 15分間の休憩の後、「伊是名の会」による琉球舞踊をベースにした『琉美創舞』が5曲演じられた。
 神田伊織の詳細な解説を交えたナレーションによって、舞踊を一層楽しむことができた。
 最後の『花』に感動!


6月26日(土)14時45分開演、なかの芸能小劇場
チケット:3000円、全席自由席


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