高木登 観劇日記2020年 トップページへ
 
   MONO 『その鉄塔に男たちはいるという+』           No. 2020-004
 

 武蔵野市の新型コロナウィルス感染症対応方針で武蔵野文化事業団は全館閉鎖の中、劇団の予定通り開催するという要望で、開場時間を15分前に遅らせて予定通り開催された。
 なんとなく茫洋とした雰囲気が気に入ってかつてはよく見ていたのだが、キューカンバーの公演は実に久しぶりの観劇だった。
 会場に入ってまず感じたのは小劇団らしからぬ舞台装置で、これだけの舞台装置を作っていて公演中止となれば、その損害は小劇団にとって致命的ともいえるスケールだった。
 チラシのパンフレットや終演後の劇団代表の土田英生の挨拶の言葉に、30周年を迎えた劇団が、1998年に初演した劇団の代表作をオリジナルメンバーで「同じ場所(鉄塔の上)で展開する時間軸の違う短編(過去の出来事)をプラスした新しい地平で物語は完結する」上演と説明されている。()内は筆者のつけ加え。
 この劇を観るのは初めてだったので初演との違いは分からないが、タイトルにある「+」は、本編第二部の過去の物語に第一部を加えたことを示しているものと思う。
 その第一部では、夫婦仲を心配した妹が、自分が親友だと思っているかつての恩師でもある友人のいる外国旅行に連れ出すが、その友人から案内された古い鉄塔の上で4人の会話が繰り広げられる。
 妻は夫に離婚するつもりであると告白し、そのことから結果的にはそれぞれのお互いの気持のずれがあからさまになっていき、互いの関係が修復しがたいまでに陥る。
 その夫婦には小学3年生になる息子陽乃介(はるのすけ)がいるが、第一部はその4人の関係がぎくしゃくしたまま、先行きの見えない状況のまま終わる。
 本編である第二部は、おそらくそれから30年後ぐらいと思われるが、第一部の夫婦の息子陽乃介が父親と同じ年齢ほどになっており、その鉄塔のある外国に慰問団のグループの一人として参加して来ている。彼には小学3年生になる娘が一人いるということが会話の中で明らかにされることで第一部との密接な関係が示される。
 慰問団は戦場となっているその外国に来ていたのだが、メンバー4人がリーダーに反発して鉄塔の上に逃亡したその夜からこの第二部は始まり、そこへ一人の逃亡兵が加わって余興の練習をして過ごす。
 内戦が終わったその朝、この全員が味方から逃亡の罪で全員鉄塔の上で射殺されてしまってこの劇は終わる。
 話の筋としては変哲もないものだが、この劇の見どころはそんなところにあるのではなく、登場人物たちの会話のずれと所作に面白さがある。
 この会話のずれは、この劇団、というか作者土田英生の紡ぎあげる台詞の人の心理を突いた妙味からくるもので、そこに、そこはかとない面白みを感じ、思わず笑わされてしまう。
 こんな時だからこそ、またこんな時代だからこそ、この笑いが貴重に感じられた。
 出演は、第一部が、渡辺啓太、石丸奈菜美、立川茜、高橋明日香。第二部は、奥村泰彦、尾方宜久、水沼健、土田英生、金替康博。
 上演時間は、途中10分間の休憩を入れて、2時間20分。


キューカンバー主催・企画制作、作・演出/土田英生、舞台美術/奥村泰彦
3月20日(金)14時開演、吉祥寺シアター、チケット:4200円、座席:H列9番


>>別館トップページへ