高木登 観劇日記2020年 トップページへ
 
   Pカンパニー第29回公演 『京河原町四条上る近江屋二階―夢、幕末青年の』  No. 2020-003
 

 新型コロナウィルスの関係で各劇場での公演中止が相次いでいるため、あらかじめPカンパニーに電話で直接確認したうえで出かけた。
 入場にあたって全員がアルコールでの手洗いと、マスクを着用していない人には無料でマスクが配られ、マスク着用が義務付けられた。マスクがないと騒がれているこの時期、無料でマスクを配っていることにまず驚かされたが、平日のマチネでしかもこのような状況下にかかわらずほぼ満席状況であったのも驚きで、すべてが異常事態での公演であった。
 『京河原町四条上る』は福田義之の青年の見果てぬ「夢シリーズ」の一環で、坂本龍馬と中岡慎太郎を主人公にしたドラマ。
案内役の女性の伯父が書いた戯曲の稽古場を見学しながら、ひげ男とふたりで解説をはさみながら劇が展開していくという福田義之の特徴である重層構造となっている。
 坂本龍馬と中岡慎太郎を襲った実行犯は謎であるが、京都見回り組の佐々木只三郎らがほぼ定説となっており、この劇でも彼が実行犯のリーダーとして登場するが、この劇の核心はそこにあるのではなく、その実行犯の背後に土佐藩の上士福川をにおわせ、同じく土佐藩の岡本健三郎なる人物を龍馬暗殺の導き役のようにし、彼をして「自分はただ見ていただけで何も知らない、かかわっていない」と言わしめるところにあるように思えた。
 案内役の女性が「見て見ないふり」行為こそ実行犯と変わりがないことを強く主張する、その主張こそがこの劇の核心であることを強く感じさせた。
 この岡本健三郎は中岡慎太郎の陸援隊の同志(のよう)でもあり、シンパのようでもあるが、実は上士の福川の忖度のもとに行動しているようにも受け取れる人物として登場する。
 龍馬暗殺の真犯人の一人に中岡慎太郎説もあるようで、龍馬が海援隊のリーダーで「和平派」であるのに対し、慎太郎は陸援隊のリーダーで「武闘派」として、ふたりは主義の点では一致しているものの実行における手段が異なっているが、その手段は異なるものの主義においては互いに信を置いており、互いにその夢を語り合う仲であることが描かれる。
 事件後、先に絶命した龍馬が三途の川に船で慎太郎を迎えにきて、二人は果たせなかった「夢」を語り合う。
 龍馬暗殺の場面での庶民たちの声だけの「ええじゃないか」踊りが、最後は舞台に登場してきて全員が舞台全体で踊りを繰り広げ暗転して幕となる。
 劇の前半は展開が拡散的でわかりにくかったが、後半でこの劇の核心が見えてきたような気がした。
坂本龍馬を演じる平田広明は昔から好きな役者のひとりだが龍馬役には年を取りすぎて晩年の龍馬を見ているような感じで、自分が描いている龍馬のイメージにあわせにくかった。
中岡慎太郎には林次樹、解説役のひげ男に森源次郎、案内役の女性に木村万里、上士福川に内田龍麿、岡本健三郎に磯貝誠など、木山事務所時代からの古きメンバーたち。
上演時間は、途中15分間の休憩をはさんで、2時間。


作・演出/福田義之、美術/石井みつる
3月6日(金)13時開演、東京芸術劇場シアターウェスト
チケット:4500円、座席:EX列11番


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