高木登 観劇日記2020年 トップページへ
 
   グローブ文芸シアター2020・クリスマス朗読シアター      No. 2020-019
 

オー・ヘンリー作 『警官と讃美歌』、『賢者の贈物』
チャールズ・ディケンズ作 『ひいらぎ旅館のブーツ』

 ちょっぴり苦みのある、心が温もる、クリスマスの時期にふさわし作品。
 オー・ヘンリーの短編はアイロニーを含むどんでん返し的な結末が特徴であるが、朗読では自分で読む読書とは一味異なった趣を楽しむことができる。
 最初の『警官と讃美歌』は、当初小川高義訳での朗読予定が、平ますみ訳として朗読者松川真澄本人の訳によって朗読された。
 ニューヨーク、マジソン・スクゥエアに今年も冬将軍がやってきた。浮浪者ソーピーはこの季節になると、毎年「島」(刑務所)で3か月過ごすことにしていて、今年も慈善という重荷を背負うより島の生活を選ぶが、警官の目の前で軽犯罪を繰り返すがいずれも失敗する。失意の気持の中、閑静な場所に建つ教会の前に来て、そこから聞えて来る讃美歌に心が洗われ、真面目に仕事につこうと決心する。そのとき、警官が近づいて来てソーピーを不審者として捕らえられて裁判所に送られ、3か月の入獄の判決が下されたところで終わる。

 倉橋秀美が朗読した『賢者の贈物』は、大津英一郎訳。
クリスマスの日。若い妻デラの手元にはわずか1ドル87セント、そのうちの60セントはデラが毎日の買い物のつど、食料品店や八百屋、肉屋などから冷たい非難を受けながらも値切って得た1ペニーをコツコツと貯め込んだお金であった。デラは鬘屋に自慢の髪を20ドルで売り、夫のジムへのクリスマスプレゼントに金時計の鎖を買う。
 一方ジムはデラの美しい髪の為に、祖父から父へと受け継がれてきた金時計を売ってデラが欲しがっていた櫛飾りを買っていたのだった。お互いの贈物が用をなさなくなったアイロニーであるが、心温まる話でもある。
 オー・ヘンリーの2作は、クリスマスの話題としてもふさわしい選択であった。

 ディケンズの『ひいらぎ旅館のブーツ』は、荒井良雄・逢見明久訳で、蔀英治が朗読。
 旅行の途中、大雪で逗留を余儀なくされたひいらぎ旅館で、作者がこの旅館の従業員ブーツから幼い少年と少女の駆け落ちした物語を聞く話の物語である。
 ブーツはこの少年ハルの邸に庭師の弟子として働いていた。ハルには幼い少女ノーラという恋人がいて二人は結婚するんだと言って、結婚したら大好きなブーツを自分の邸で働いてもらうのだと言っていた。ブーツはやがてハルの邸を去るが、ある時、ハルとノーラを乗せた馬車がひいらぎ旅館に到着する。ブーツから二人の子供のことを聞いた旅館の主人はハルの両親に知らせるべく、ブーツに二人を見張っておくように命じる。ブーツはハルの気持を裏切ったことを悔やむ。駆けつけたハルの父親はハルを叱ることもせず、少年と少女は別れ別れに連れ帰られる。ブーツは後日談として、ノーラが総督と結婚して若くしてインドで亡くなった事を話して、自分の話はこれでおしまいだと言って静かに部屋を出ていく。
 蔀英治の演技を感じさせる迫力ある朗読力によって、物語の全貌が生き生きと浮かび上がって、ぐいぐいと引き込まれて聴き入った。
 3篇の朗読劇は、僕にとってのよきクリスマスプレゼントをもらった感じで、喜福のひと時であった。

 

構成・演出/蔀 英治
12月19日(土)14時開演、阿佐ヶ谷ワークショップ、料金:2000円


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