高木登 観劇日記2020年 トップページへ
 
   REBORN公演・7 『ジプシー:千の輪の切り株の上の物語』      No. 2020-018
 

 完成間近の分譲マンションを購入した若い夫婦が、深夜に自分たちの新しい城を確認するために忍び込む。
 夫の孝史は部屋の内装に夢を膨らませ、若くしてマンションを購入したことを妻の秀子に誇ろかに語る。
 そこに突然、怪しげな一団がにぎにぎしく現れ、夫婦は非常階段から逃げ出す。
 そのにぎやかな一団が去った後、二人が工事現場の監督らとその部屋に戻ってみると、部屋の中に1本の木が植え付けられていて、どのようにしても引き抜くことが出来ない。
 再びそのにぎやかな一団が戻って来て、現場監督の制止も無視してどんちゃん騒ぎを始める。
 そのにぎやかな一団は、この分譲マンションが建つ前、依然は林であった大木のもとに毎年やってきて梅雨が過ぎるまでのひと時を過ごしていた流浪の家族の一団、三世代からなるジプシーであった。
 ジプシーの家族と、彼らを追い出そうとする工事現場の職人たち、若夫婦の間で騒動が繰り広げられるが、秀子は次第にジプシーの家族に共感を抱くようになるが、夫の孝史はそんな妻の気持を理解できない。
 ジプシーの祖母タネが、秀子と孝史の未来のトランプ占いをし、二人は仲違いして別れることになるが、再び関係を戻して4人の子供を産むと予言する。
 ジプシーとの関係をめぐって秀子と孝史の関係が次第に険悪になっていく。
 ジプシーを追い出すためについに暴力沙汰となり、やられたらやり返すというジプシーの反撃に、工事現場の主任の立場にあるカンさんと秀子だけはそんなジプシーに共感を示す。
 カンさんは、ジプシーの子供、シゲルとアユの兄妹に、お前たちは鳥だったと言い、カンさんが二人にジプシーの言葉が分かるのは、自分も鳥だったから自分の言葉も鳥の言葉だからだと説明する。
 この暴力騒動でジプシーの祖父トクが亡くなり、ジプシーの一家は、祖父をこのマンションの地の一角に埋葬して立ち去っていく。
 そのとき、孝史は心境の変化からジプシーと一緒についていきたいと言い出し、ついていく。
 ジプシーの母アサは秀子との別れの挨拶で、またいつの日か姿を変えて逢うこともあるでしょうと言って去っていき、秀子はジプシーへの共感は、遠い昔に彼らと出会った記憶からのなつかしさだと感じる。
 夜が明け、孝史は秀子のところに戻って来て、二人の気持は再び一つに結ばれる。
 タイトルにある「千の輪の切り株」は、劇中、ジプシーの祖父トクが、マンションの部屋に置かれた木のテーブルの木目を見て、その木が、このマンションが建つ前にあった林の大木の切り株であることに気づいて吐く言葉として表される。
 都会の新築中のマンションに突如として現れるジプシーの一団は現実とはかけ離れたファンタジーであるが、それは我々が失いつつある心の表象化された姿、心象風景とも言える。
 その心を汲み取れるのは輪廻を感じることのできる秀子と、渡り職人のカンさんの二人だけで、その二人と、自己保身でいっぱいの現場監督と自己満足に陶酔して他人の心が読めない秀子の夫孝史との人間関係の対比がジプシーの闖入というひと騒動を通して、サスペンス的な展開となって面白さを引き立てている。
 若い夫婦の夫孝史に蒼優馬、妻秀子に君島久子、カンさんに西口卓男、現場監督に鈴木亮介、ジプシーの祖父トクにムンス、祖母タネに芳尾孝子、他工事現場の職人やジプシーの家族たち、コンビニの店員など総勢で16名。
 およそあり得ない話のファンタジー的リアルな面白さを存分に楽しませてもらった。
 上演時間は、85分。

 

原作/横内謙介、台本構成・演出/PARK BANGIL
12月18日(金)14時開演、両国・スタジオ・アプローズ、料金:3500円、全席自由席


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