高木登 観劇日記2020年 トップページへ
 
   C.a.t 第5回公演 『月並みなはなし』              No. 2020-017
 

 アポロ11号に乗って船長ニール・アームストロングと飛行士エドウィン・オルドリンが人類史上初めて月着陸船イーグルで「静かの海」に着陸したのは、1969年7月20日。その後月面着陸計画が終了する1972年12月までに人類が月に到達したのは合計12名、いずれも米国宇宙飛行士であった。
 現在は、その月面到達から半世紀過ぎているが、この話はその現在からの近未来の話。
 6人の若者たちが月移住計画に応募し、最終審査で落選してその落選残念会を開く会場(レストラン?)が舞台の場面。
 三々五々、落選したメンバーが集まって来るが、その中に一人、見知らぬ若い女性。セガワミミと名乗り、「ミミ」のミミは「耳」のミミだと自己紹介し一方的にしゃべりまくる。彼女の兄はその月面移住計画の選考委員の一人で、残念会の会場に現れて、一人だけの欠員ができ、6人の中から一人だけ、1時間以内に選んでくださいと言って去る。ミミは、部外者ながらもメンバーから残るように言われ、その選考過程に参加する。
 本来はメンバー6人一緒に行くということで応募しているので、その中から一人だけ選ぶということに躊躇し、メンバーたちは悩むが、一人一人が行きたい気持ちに変わりなく、どのような方法で選び出していくか、その方法を悩みつつも一人ずつ多数決で落としていくことに決める。
 この一人一人落としていく過程が、同じ室内舞台の『十二人の怒れる男』の劇と似通った緊迫感を生み出していく。落とされた各自は、なぜ自分が落とされたのか、憤り、泣き、納得できないとその理由を尋ね、メンバー間の人間関係が次第に険悪になっていく。
 最後に二人の男性が残る。一人は、メンバーの一人でもある妻が最初から選考メンバーから降りており、夫が一人で行くことに不賛成で、夫が選ばれることを阻止するためにメンバーを買収しようとまで考える。
 今一人は、経歴からすればこの月移住に最適と思われる人物だが、彼には(彼自身は知らないが)妊娠している恋人がいる。
 残った二人の候補者は、人のしがらみという条件から見れば、落ちたメンバーに比べて一番選ばれるべきでないとも思えるシチュエーションである。
 結局、経歴的に一番ふさわしい彼が残って選ばれたところでセガワが登場し、選考の結果を聞いた後、全員が移住計画のメンバーとして合格したことを告げる。メンバーは戸惑うだけでなく、その選考方法に憤慨する。
 一人だけ選ぶ選考で残った彼と、彼の恋人が抱き合う姿でこの劇は幕を閉じる。
 果たして、かれらはその選考結果を受け入れるのかどうか?!
 選考委員の妹である闖入者ミミが、その選考過程の委員の一人として計画的に入り込んだのではないかということも想像できる余地を残しているところもいい。
 結末のペンディングとミミの存在が多義的で、サスペンス劇ともいえる良質なドラマを楽しむことが出来た。
 出演は、選考に最後の一人として残ったコスギコウドウにスイスイ(御影一)、彼の恋人に近藤由香梨、最後に残る二人の内の一人ススムにいっしー、その妻ユリコに林瑠璃、月のエレベーターガールをめざすキリンに古屋美彩、二世議員で最初に選考で落ちてしまうカンバラユキチに加納怜、月でパン屋をめざすアマネに渡辺史織、ミミに別府理彩、セガワハナに江原泰成の9名。
 上演時間は、80分。

 

作/黒澤世莉、潤色&演出/調布 大
12月5日(土)14時開演、両国・スタジオ・アプローズ、チケット:3500円


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