高木登 観劇日記2020年 トップページへ
 
   KAZAWA☆第11回公演 『あなたとしたい』             No. 2020-015
 

 パンチが効いていて、それでいてほんのりした優しさを感じる「大人のちょっぴりすけべえ」な芝居。
 元AV俳優のアフローディテがセックスの悩み相談に答えるユーチューブの録画撮りの場面から始まる。
 撮影しているのは帰国子女の派遣社員片岡。彼はその番組の担当撮影者のピンチヒッターで、撮影は素人だと言いながらも、なかなかの腕でその後もそのユーチューブの担当を続け、アフローディテも信頼しており、片岡も心を開いて自分のことを彼に話すようになっている。
 知り合ったコンビニの店長代理の女性に片岡はいつしか恋心を抱くようになっていたそのようなとき、アフローディテから渡されたAVのカバーの写真がその女性に似ていることに気づく。
 そのコンビニの店長代理は、かつて絶大な人気を博したAV女優の赤城璃子。彼女は子供が生まれると人知れず引退して今ではシングルマザーとして、大学生の娘との二人暮らし。
 そんな平凡な日常生活の中に、ある日突然AV監督の元夫がやって来る。今AV業界ではリヴァイバル女優のカムバック作品が受けているということで、かつての人気女優のカムバック企画は絶対に当たるということで、プロデューサーも大いに乗り気となっている。
 娘のことを考えて母親が元AV女優ということを知られないように娘の学校の行事にも参加せずに来た彼女であるが、娘が自立し始めた今、自分のよりどころとしてカムバックを決意する。
 ところが元夫はいろいろ彼女のことを調べ回っていて、片岡を撮影者に選んだことからこの話は破綻する。
 彼女は大胆な演技で一世を風靡したにもかかわらず、台本がなければセックスシーンを演じられない程のガチガチの少女であったが、20年たった今もその気質は変らない。そんな彼女がAV女優になったいきさつは自分を変える拠り所として自ら選んだ道であった。
 彼女を愛する片岡も海外の大学在学中に起業して成功したものの、その会社を友人に惜しげもなく渡している。彼が起業したのも自分のよりどころ、居場所を求めての事であったが、成功した起業の会社を手放したのもその気持ちを満たしてくれることがなかったからであった。その奥にある原因は実は一緒に事業を起こした友人の自殺未遂にあったことを、カウンセラーのアフローディテに打ち明ける。
 片岡も璃子も、お互いに心に満たされるものを求めて駆り立てられているが、実人生では不器用であるところが共通点となっていて、そこが二人を引きあうものにしている。
 そんな二人が結ばれることがあるであろうか、というのがこのドラマの進展の中で気をやきもきさせるという面白さ、サスペンスとなっている。
 恋に奥手で不器用な片岡が、璃子に恋を打ち明けて彼女を抱きしめた時、男が立って飛び離れる。そんな彼を見て同じく実人生の恋愛では奥手な彼女がおずおずと「あなたとしたい」という言葉を吐く。この場面が何とも優しくほんのりさせられるのは、実直で人のよさそうな笑顔を絶やさない片岡を演じる岡本高英の心温まる演技と、大胆なAV女優の演技をたっぷりと見(魅)せる一方で、現実の恋にうぶな姿をにじませる若林美保の演技力であった。
 赤城璃子の元夫でAV監督を演じた間天憑もドスの効いたセリフとパンチ力のある演技、そして全体のエロチックなムードをほんのりと盛り上げてくれる風間寛治の包容力のある優しみのにじみ出る演技、その4人のアンサンブルと、劇の構成と展開がこの劇にのめり込ませてくれて楽しませてくれた。
上演時間は1時間20分。

 

作/うえのやまさおり、演出/風間寛治
12月3日(木)14時開演、浅草リトルシアター、木戸銭/4500円

 

KAZAWA☆第11回公演


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