高木登 観劇日記2019年 トップページへ
 
    世界でいちばんちいさな劇場 No. 76
   吟遊詩人・条田瑞穂の連続創作詩劇朗読     
         No. 2019-009
 

アラブヴァイオリン演奏者及川景子との共演で、今回はいつもより数が多く、第一部と第二部併せて10篇の詩を朗読。
第一部
1) 宇宙鳥―旅の始まり
2) アルテミス(月の女神)
3) イカロスの祈り
4) 人魚姫の手紙―アンデルセンより
5) 歌う川―サラ
第二部
1) 赤い靴―アンデルセンより
2) エンゼルアワー(昭和の子どもシリーズ)
3) 風の行方
4) 蝸牛(かたつむり)
5) 砂の揺りかご
全てこれまで聴いたことのある詩ばかりであるが、共演する楽器の演奏で印象がまったく異なって感じられるから不思議である。
アラブヴァイオリンの弾き方は通常のヴァイオリンの弾き方とは異なった特異なもので、音色も、その名の通り中近東の雰囲気を醸し出し、あるときは強く、ある時はささやくような、またあるときは風のそよぎのような音色で、そのヴァイオリンの音色に聞き入ってしまうことしばしであった。
詩の朗読の陰に隠れることもなく自己主張のある演奏であるが、かといって詩の朗読を遮ることもなく、両者が撚り糸のように混然一体となりながらも、その撚り糸が離れては再び一体となって調和をなしている。
今回が初めての共演である及川景子の演奏は、詩を先取りするような予兆的な演奏で始まり、朗読する条田もその演奏の間合いを巧みな沈黙で埋め、そのこと自体に詩を感じさせた。
詩の朗読は、悠久の砂漠の旅に始まり、砂漠に落ちた「宇宙鳥」の星を求め、光の記憶をたどって旅を続けることから始まって、あたかも全10篇が一篇の詩として組み込まれたかのようである。
世界はどこかで崩壊している、窓辺の月の女神「アルテミス」が見つめるものを我々も見つめる。
続く「イカロスの祈り」まで一気に朗読した後、条田は最近観た映画、クリント・イーストウッドの90歳を超えた老人の麻薬の「運び屋」の話から、老いの気持をかなぐり捨て、これから先10年詩の朗読を続けていく決意を語る。
条田にとって砂漠は、27歳のとき母を亡くした喪失感を埋めるかのように、幼い時から何十回となく読んできたアンデルセンの文庫本を持って旅立ったサハラ砂漠の旅の記憶につながっている。
条田の詩は、この記憶の中の砂漠のイメージと、条田が愛してやまない映画の印象から創られることが多いが、「歌う川―サラ」もその一つである。この詩も何度となく聞いてきたが、共演者の楽器の演奏によって印象がその都度異なり、いつも新たな気持で聞く思いがする。
第一部、第二部ともそれぞれ合計で35分程度の朗読であるが、緊張感のある濃密な雰囲気を味わいながら、心地よい時空をさまよう「時」を過ごした。

 

4月12日(金)19時開演、阿佐ヶ谷・喫茶ヴィオロンにて
料金:1000円(ドリンク付き)


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