高木登 観劇日記2019年 トップページへ
 
   新国立劇場演劇研修所・第12期生終了公演 『るつぼ』       No. 2019-004
 

2014年8月の英国観劇旅行で、ロンドンのオールドヴィック劇場でのイェイル・ファーバー演出による舞台を観て衝撃的ともいえる感動を受けたアーサー・ミラー作『るつぼ』
その作品を演劇研修所終了公演として研修生が演じるのは、演出の宮田慶子の言にあるように無謀ともいえる企画かも知れないが、研修生にとっては大きな収穫を残すことが出来たであろうと感じるものがあった。
細かい点での演出の違いについて、まず冒頭部からして緊張感が異なった。
ファーバーの演出では、
<頭に布を巻いて後ろに垂らした女たちが寝台を引いて運んでくる一方、男たちが机と椅子を運んでくる。
女たちが泥にまみれた下着姿の少女を仰向けにして頭上高く担ぎあげてやってきて、少女を寝台の上に投げ捨てるようにして寝かしつける。
少女はこの家の主人である牧師パリスの娘ベティで、彼女は長い間眠ったまま眼を覚まさない。
パリスは読んでいた本の上に頭を乗せ、机の上にうつ伏せになって寝入っている。
パリスの奴隷ティトゥバが、鳩が首を前後に動かして歩き回るような格好をして、半ば踊るような所作で寝台の周囲を歩きまわっているが、やがて眠っているベティを起こして自分の腕の中に抱きあげる。
はっと目覚めたパリスがその様子を見つけてティトゥバを追い払い、ベティを眠りから覚まさせようと懸命に努めるが、空しい努力に終わる。>と観劇日記に記している。
この舞台では、ベティは最初からベッドで眠ったままで、パリスはベッドの廻りを不安げに歩き回っているが、冒頭部の緊張感という点ではファーバーの演出と較べると平板な感じであった。
しかしながら、パリスに対するジョン・プロクターの反感の理由については、日本語での台詞という事もあって、細かい点で前回気が付かなかったようなところもよく理解でき、それだけに劇を観ていてパリスに対するプロクターの反感が自分にもそのまま伝わってきた。
法廷での少女たちの集団ヒステリーの場面は、ファーバーの演出で感じた「集団ヒステリーの恐怖感」と比較するとわざとらしさの稚拙さを感じて不満が残るものがあった。
演技面では12期生では、ジョン・プロクターを演じた河合隆太は過剰ともいえる演技であったがその熱演に熱いものを感じ、アビゲイル役の川飛舞花はふてぶてしさと憎々しさを感じさせて好演、ただ一人魔女裁判に批判的なヘイル牧師を演じた福本鴻介の人物像造形には役柄としての好感を感じた。
ダンフォース副総督を演じた西原やすあきは、2期生としての先輩演技を感じさせる貫禄の重さがあった。
細かい点での多少の不満はあったが、全体としては感動的な終了公演で上出来であったと思う。
上演時間は、途中15分間の休憩を挟んで、3時間20分。

 

作/アーサー・ミラー、翻訳/水谷八也、演出/宮田慶子、美術/長田佳代子
2月10日(日)14時開演、新国立劇場・小劇場
チケット:(A席)3240円、座席:C4列2番


>>別館トップページへ