高木登 観劇日記2019年 トップページへ
 
    世界でいちばんちいさな劇場 No. 69 ー 吟遊詩人・条田瑞穂の連続創作詩劇朗読 ー
   「過去・現在・未来伝説」と「昭和という時代の形」を謳う        
No. 2019-033
 

 安土桃山時代から続く能楽一噌流笛方15代目一噌幸弘を招いての共演ということで、条田はこの日の為に新作を用意して臨む。
 第一部は、これまでに何度も朗読してきた、過去・現在・未来の伝説を謳う、
(1)「宇宙鳥~旅立ち~」
(2)「歌う川~祖母サラに~」
(3)「五月に、あるいは迷い鳥~百年たったら~」
(4)「アンリ・ルソー、青いライオン~砂漠の花~」
(5)「かむろ坂」 
 最初の「宇宙鳥」では、一噌幸弘は「道成寺」を演奏(終演後にその曲名を本人が条田に説明していたのを聞く)、その演奏で、これまで何度か聴いてきた「宇宙鳥」とは異なった印象の幽玄の世界へと引き込まれていった。
 最初、笛の演奏は後部座席の後ろからで一体どこで吹いているのだろうかと思っていたが、途中から狭い客席の周囲を移動してきて、第一部の最後「かむろ坂」では見える位置に来た時、その笛の使い方に驚かされた。
 袴の帯には5、6本の笛がさされており、最初は角笛の形の笛の演奏に始まり、続いて縦笛を同時に口にして演奏、そして次には縦笛2本を同時に演奏した後、横笛1本の演奏と続いた。
 これまで条田の詩の朗読では色々な楽器との共演を見て聴いてきたが、詩の朗読が楽器に圧倒されているという感じがまったくなかったのだが、今回ばかりは一噌の笛の演奏に条田の詩の朗読を聴くのを一瞬忘れてしまう程であった。
 10分間の休憩の後、条田の生まれた時からの生い立ちと、満州で昭和20年8月6日という日に生まれた自分の運命と宿命に対する覚悟、自分が生きて来た昭和という時代の形の区切りとして詩を書いてきてこれからも書いていくことを語ったあと、第二部の朗読が始まる。
(1)「銀の月」
(2)「(蒼穹の伽藍より)ふゆの母子像~Mさんに~」で、骨壺を抱いて駅まで果てしなく歩く母と娘を謳う。その骨壺は歩き進めるにしたがって重くなっていき、母と娘はかわるがわるにそれを抱いて永遠に歩き続ける。
(3)「エンジェル・アワー~ラジオのやうに~」では、昭和を回顧する北原白秋などの童謡を散りばめた詩。
(4)この日のための新作「イヴの林檎~窓辺に~」では、窓辺に置かれ、ゆっくりと腐っていく林檎をモチーフに、昭和という時代の回顧の表象として謳う。
(5)貧しかった時代を「ヤンボー、ニンボー、ビンボー」と笑い飛ばす条田が育った家族の団らんを回顧する「クリスマス・キャロル」で、昭和という時代の形を歌い上げてこの夜の朗読ライブを終った。この詩の朗読では、一噌幸弘が一時に縦笛3本を口にしての演奏したのにも驚かされた。
 これまでの朗読で聴いてきた共演者の演奏はどちらかというと条田の詩の朗読に寄り添うような形であったが、今回の一噌幸弘の笛の演奏は、それだけでひとつの独自な世界となっていて、条田の詩の朗読との真っ向真剣勝負を感じさせ、圧倒されるものがあった。

 

作詩・朗読/条田瑞穂、共演/能楽一噌流笛方・一噌幸弘、録音記録/浜田博幸
11月1日(金)19時開演、阿佐ヶ谷・喫茶ヴィオロンにて、料金:1000円(ドリンク付き)


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