高木登 観劇日記2019年 トップページへ
 
    こまつ座/ホリプロ主催・企画制作 『組曲虐殺』          No. 2019-030
 

 『組曲虐殺』は、井上ひさしが天王洲銀河劇場に初めて書き下ろす新作として2009年10月に初演されたが、残念ながら観劇記録を残していない。
 それで観劇前に脚本を改めて読んで見ると、第2幕の6「パブロフの犬」の冒頭、古橋と山本の二人の特高刑事が歌う歌詞に「吠え立てますぜ」「ションベンしますぜ」「食いつきますぜ」と語尾に「ぜ」がつく音に、今回も同じ役で出演する山本龍二のイメージが鮮明に蘇ってきて懐かしく感じた。
 今回もその場面に同じようなインパクトを感じながら聴いたが、台詞として改めて強く心に響いてきたのは、最後の大詰めの場面で特高刑事の山本が恩人斎藤虎造のことを書いた「虎造先生からの64円」を多喜二に添削を求めるが、そのときの多喜二の「頭だけちょっと突っ込んで書く。それではいけない。体ぜんたいでぶつかっていかなきゃ」という台詞は、そのまま井上ひさしの姿勢として響いてきて、井上ひさしの思いを強く感じさせられた。
 初演時のプログラムに演出の栗山民也が「多喜二にとって、書くということは何だったのか。心に焼きついて離れない多喜二の視線に、貧しく虐げられた者たちや重く心に沈殿していったものが、映像のように浮かび上がる。多喜二はそういう者たちの姿を映し出すためにペンをとったのではないでしょうか」と書いているが、今回の演出(前回の事は記録に無いので覚えていないが)では、映像が効果的に映し出されているのに強い印象を感じた。
 小樽の海を思わせる海岸の打ち寄せる波の風景もその一つであるが、最後の場面で多喜二が残したことば「カタカタまわる 胸の映写機」の歌を多喜二を除いた5人で歌う場面で多喜二(井上芳雄)のスナップショットを映し出すことで、当の本人多喜二が拷問で亡くなった不在を強く印象付けた。
 出演は4人が初演時と同じで、主演の多喜二を井上芳雄、多喜二の姉チマを高畑淳子、多喜二の妻伊藤ふじ子を神野三鈴、特高刑事の古橋を山本龍二、そして今回新たに多喜二の恋人田口龍子を初演の石原さとみに代わって上白石萠音、特高刑事の山本を山崎一に代わって土屋佑壱の6名。
 上演時間は、休憩15分を挟んで3時間15分。

 

作/井上ひさし、演出/栗山民也、音楽・演奏/小曾根 真、美術/伊藤雅子
10月7日(月)13時30分開演、天王洲・銀河劇場、チケット:(A席)7000円、座席:3階A列16番


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