高木登 観劇日記2019年 トップページへ
 
   草彅良一プロデュース/なぎプロ第26回公演 『おばこ旅館物語―ここに幸あり』 No. 2019-029
 

 おもしろ、おかしく、楽しく、ちょっぴり涙、心温まる芝居で、その心優しさが終演時のカーテンコールにもよく表れていた。
スペシャル出演者の紹介だけでなく、振り付け、演出、舞台監督、照明、宣伝美術の担当者のみならず、最後には受付担当者(の紹介は、愛敬にも名前ではなく「その他の」と言って、観客席からも笑いが起こったが)にまで感謝の言葉を送り、観客の拍手を得たのも主宰者草彅良一の人柄が現われていた。
舞台はサブタイトルにある「ここに幸あり」のピアノ演奏から始まる。
おばこ旅館の主人は入り婿であるが、おっとりとした人物。
芝居の主筋は、秋田の田沢湖近くのおばこ旅館を舞台にして繰り広げられる『瞼の母』の現代版と言ってもよく、それにおもしろ、おかしな副筋がいくつも絡んで、テンポよく物語が展開していく。
その日、おばこ旅館の料理長で息子に初めての赤ん坊が産まれる。
副筋の第一は、その旅館に泊まっている夫婦連れ。
二人の会話からどうやら彼らは自殺をするためにこの田沢湖にやってきたことが伺い知れる。
副筋の第二は、「おもてなし」を学ぶためにブラジルからやって来た3姉妹。
物語の進展から、彼女たちはこの旅館の女主人の父親の娘たちだと分かる。
父親は、金を求めてブラジルに渡って、そこで若い娘と恋に落ち結婚するが、彼女はオリンピックの金メダル候補ということで、「金」を求めてブラジルに渡った父親の「オチ」となる。
おだやかなおばこ旅館の一日に次々と事件が起こって来るが、極めつけが宿の女主人に届いたフランスからの手紙。
その手紙の主は、女主人の妹からの手紙で、その彼女が日本に戻ってくるという内容で、早くもその彼女の荷物が宿に届く。
妹は、地方公演にやってきた芝居一座の『瞼の母』を演じた主演の役者に恋をして、その一座のフランス公演について行きそのままフランスに滞在し、夫となったその役者が亡くなって日本に戻って来ることにしたのだった。
その彼女と役者の子どもがこの旅館の跡取り息子であることは予想がつくことであるが、その展開が芝居の『瞼の母』を思わせる。
息子は『瞼の母』の忠太郎のように一旦は実の母親を拒否するが、そのままフランスに帰ろうとする母親に、僕の料理を食べる約束を果たせと引き止め、生まれたばかりの赤ん坊「テルヒコ」を抱いてもらう。
母親は孫を抱きながら、「ここに幸あり」の歌を口ずさむ。
その家族の温かみを立ち聞きしていた自殺を考えていた夫婦連れが、「家族」の大切さを思い、自殺を思いとどまる決心をし、すべてが温かく、丸く収まる。
宿の主人を演じる草彅良一の何とも言えない人物の鷹揚さ、その妻で宿の女主人を演じて重量感を感じさせる木村翠、妹で『瞼の母』の名場面を舞台上で演じて見(魅)せる白井真木、その彼女とフランスから一緒についてきた若い男に加藤基世祉、先代の時代から40年以上にわたって勤める仲居の真実一路をひょうひょうと演じる仲野元子、宿の息子をさわやかに演じる高倉広志、その妻を岩永ゆい、ズッコケ仲居を演じる倉橋秀美、自殺志願の夫婦に小倉昌明と藤浪靖子、宿の女主人の弟で見事な三味線の演奏を披露する野本卓也、その妻の看護師に宮田彩子、真実一路の小学校の同級生で謎の(?)マッサージ師に五歩一豊、ブラジルの3人娘に登ゆみ、千賀多佳乃、黒田麻美、そしてマッサージの登場と共に現れる謎の踊り手として、振り付けの坂口江都子と演出の高橋征男、それぞれが個性味溢れる演技で、総勢18名で、賑やかな舞台を心ゆくまで楽しませてくれた。
上演時間は、途中15分間の休憩をはさんで2時間30分。

 

脚本/草彅良一、演出/高橋征男・草彅良一
10月6日(日)14時開演、築地本願寺第1伝道会館・ブディストホール
チケット:5000円、座席:A列9番


>>別館トップページへ