高木登 観劇日記2019年 トップページへ
 
    C.a.T. 第4回公演 『栗原課長の秘密基地』             No. 2019-028
 

 出演者が演じる登場人物のキャラクターが非常に面白いだけでなく、劇の効果と質を高めていた点が特に特筆される舞台であった。
 「きつつき児童文学賞」の授賞式の会場を舞台に繰り広げられる一種のドタバタ喜劇であるが、そこに、本音と建前、社会の裏表など、社会風刺と人間風刺の薬味がちょっぴり加わった苦みのある良質な喜劇と言える。
 受賞者はきつつき大賞と佳作賞、および特別功労賞の3人であるが、いざ表彰式となって問題が次々と発生する。
 佳作受賞者の女性が、実はAV女優ということが発覚し、選考委員の間で児童文学にふさわしくないとされるのだが、本にされるわけでもないので写真撮影で顔を見せないようにすることで何とか落ち着かせる。
 ところがさらに大きな問題が沸き起こる。
大賞受賞者の作品が一次審査で落とされた作品と類似しているということで、盗作の疑いで事態が深刻となる。
 児童文学はこの出版社の中では「きつつき賞」がなくなればいつ潰されてもおかしくないマイナーな部所で、そのためにも大賞受賞作は絶対欠かせない。
 そこで新任の栗原課長が思いついたのが、大賞受賞者の替え玉作戦。
 ミステリー部門で過去7回落ちている実力者にアイデアを提供して3日で受賞作の童話をかき上げてもらおうし、運よくその作者が出版社の近くに住んでいて直ぐにコンタクトが取れ、話がトントン拍子に進むが、いかんせん、ミステリー作家をめざすこの人物は、話のアイデアがすべてミステリーに進んでしまう。
受賞作の選考委員の一人である女流児童文学者のアイデアで何とかストーリーの骨格がまとまり、作品のないまま授賞式のやり直しとなる。
しかし、選考委員の一人である読者代表の女性が異議を唱え、受賞式はもめにもめ、佳作賞のAV女優はこのいかがわしいドタバタに疑問を抱き、受賞を辞退してしまう。
いくつものどんでん返しを繰りかえしながらも、最後には落ち着くところに落ち着くのだが、そこでタイトルの「栗原課長の秘密基地」の所以が明らかになる。
この栗原課長、ビジネス誌の編集長だったのがセクハラ問題で児童文学部門に左遷されてきたばかりの新任で、ここでミスるとリストラ間違いなしの瀬戸際。
児童文学などまったく読んだこともなく、ただ一作だけ読んだ作品があり、それは弱い者いじめされている者たちが拠り所にしている秘密基地の話で、実は、この作品が、50年児童文学を書いてきて、まったく売れない作家の作品で、今回の特別功労者が別のペンネームで書いた作品だと分かる。この場面はちょっぴり感動的な場面でもある。
 結末は本音と建前が元のさやに収まり、盗作騒ぎは実は受賞者が別のペンネームで書いた作品であることが明らかになり、ミステリー作家のにわか大賞受賞者は受賞をきっぱりと辞退するものの、栗原課長は自分の進退を度外視して、結局は大賞受賞者なしとする。
 授賞式での舞台裏の本音と建前、自己保身などに愛想をつかして読者代表の選考委員を降りた女性が、栗原課長に借りていた傘を返しに来て、そこではじめて栗原課長に自分の本当の姿を打ち明ける。
 その話を聞いた栗原課長は、弱い者いじめされた者の集まる秘密基地のメンバーとなる儀式を彼女とする場面で、舞台はゆっくりと溶暗し、幕となる。
 それぞれの登場人物のキャラをいかした出演者は、栗原課長に西村功貴、その部下に青澤佑樹、選考委員の男性童話作家に秋山由嬉雄、女流童話作家に山本陽子、読者代表の選考委員に林瑠璃、大賞受賞者に近藤由香里梨、佳作受賞者のAV女優に出来優奈、特別功労受賞者に榎本淳、カメラマンに市村大輔、ミステリー作家候補者に村松優太、そして大賞受賞者の友人に後奈津美、総勢11名。
 出演者はそれぞれに特徴を生かした演技で、誰が一番と甲乙つけがたいが、印象に残ったのは、役得ともいえる特別功労賞受賞者役で訥々とした話しぶりの老年児童作家を演じた榎本淳、そしてAV女優の天真爛漫さを演じた出来優奈、さらに付け加えれば出番はそう多くはないカメラマンの市村大輔。
 上演時間は、1時間50分。

 

作/土屋理敬、演出/調布 大
2019年9月27日(金)14時開演、両国、スタジオ・アプローズ


>>別館トップページへ