高木登 観劇日記2019年 トップページへ
 
    文学座アトリエ公演 『スリーウインターズ』             No. 2019-025
 

 3時間に及ぶ大作であるが、それほど長く感じなかった。
特に前半部は1時間40分と長いが、意外にも短く感じたほどであった。
 作者はクロアチア出身で、作品のテーマもクロアチアの歴史を背景にした4世代100年4代に渡る家族の物語。
 劇はこの4世代に渡る家族の物語が錯綜して進み、冒頭の場面は1945年、第2次世界大戦後、ローズ・キングがナチスの協力者であった貴族階級の家を手に入れるところから始まる。
 ローズはパルチザンの英雄の一人として自由に家を選ぶ権利を与えられ、鍵のたばの山の中から見覚えのある鍵を選ぶ。この家は彼女の母モニカがメイドとして働いていて、ローズが生まれて直ぐに追い出されたいわくのある家であった。
 現在(2011年)の家族は、ローズの娘マーシャとその夫ヴラド・コス、二人の娘アリサとルツィア、それに出戻りのマーシャの妹ドゥーニャ・キングが一緒に住んでいる。
 1990年、ローズの葬儀の夜、ドイツから駆けつけたドーニャの夫カール・ドリナールが、ユーゴで歴史学者の教授であるマーシャの夫ヴラドと自国の歴史観で対立し、ドリナールはユーゴの分裂を予測し、事態は彼の予言通りとなる。
 2011年という年はクロアチアがEU加盟条約署名の年。
ユーゴの分裂後、自分の主義を守り通したヴラドは失職し、今は妻マーシャとの年金で細々と暮らしている。
 この2011年の現在のこの日はコス家の次女であるルツィアの結婚式の前夜
姉のアリサもロンドンから戻って久しぶりにコス家の家族が全員そろっている。
 コス家は館の中央の一番大きな部分で暮らしているが、その日、上の部分の住人と下の部分の住人がこの家を出て行くことになるが、アリサはルツィアの結婚相手ダミヤンが脅迫してその二家族を追い出したのではないかと妹を追求する。
 ルツィアは、この館の元の所有者の娘であるカロリーナが、この家はコス家のものであると言っていたと主張して、傷んだ上の階の部屋の改修のために金を出せないマルコに、ダミヤンが立ち退き料を払って正当に出て行ってもらったのだと姉に反論する。
 この家を通して、背後にあるクロアチアの歴史、あるいは歴史観がこの家族よりも主人公と言える内容である。
 チトー大統領、ユーゴスラビアの分裂、クロアチア紛争、クロアチアのEU加盟など現代史の断片が台詞に出て来て、自分の曖昧な知識と記憶がもどかしくなるが、劇の重厚なテーマと家族の問題という身辺的な親しみが相まって内容的にも興味深いドラマであった。
 特に、最後の場面でローズの母モニカが、カロリーナを前にして語る告白、カロリーナの兄セバスチャンがモニカを純粋な人だと言ってキスをしたと語り、その先は伏せられたままドラマは閉じるが、モニカがローズを生んでわずか1日後に館を追い出されたわけが彼女のその告白を通して暗示されるのが心に残る。
 出演は、ローズに永宝千晶、その夫アレクサンダー・キングに上川路啓志、ローズの母モニカに南一恵、ローズの娘マーシャ・コスに倉野章子、その夫ヴラド・コスに石田圭祐、娘のアリサに前東美菜子、その妹ルツィアに増岡裕子、マーシャの妹ドーニャに山本郁子、その夫カール・ドリナールに斉藤志郎、上の住人マルコに神野崇、イゴールとマリンコ役に得丸伸二、そしてカロリーナに寺田路恵。
 上演時間は、途中15分間の休憩を入れて3時間。


作/テーナ・シュティヴィチッチ、訳/常田景子、演出/松本祐子
9月5日(木)13時半開演、信濃町・文学座アトリエ
チケット:4300円、座席:左側ブロック3列(最後列)28番


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