高木登 観劇日記2019年 トップページへ
 
    ALL ACT COMPANY 第23回公演 『ハツカネズミと人間』    No. 2019-023
 

 スタインベックの『ハツカネズミと人間』は、この小説が発表された1937年11月にジョージ・コーフマン演出でニューヨークのミュージック・ボックス・シアターで上演されているのに見られるように、もともと舞台を前提にした小説として書かれたというが、今回、石山雄大脚本による公演は、原作の小説を見事なまでに舞台に再現していて、まるで小説を読んでいるようで、その感動がいつまでも残った。
 小説では実際に登場する人物は11人しかいないが、キャステイングが倍以上の26人の出演者となっていたのでどのような演出になるのか楽しみにしていたが、石山の脚本では小説の第2章にあたる部分を農場の収穫祭の祝宴の場として新たに創作し、この舞台にふくらみをもたせていただけでなく、舞台を大いに盛り上げた。
 この収穫祭の祝宴は、シェイクスピアの『冬物語』の毛刈り祭りの場面を彷彿させるものを感じたが、この悲劇の一服の清涼剤として、しばし心を楽しませてくれただけでなく、この場面だけでもいくつかのサブ・ストーリーを含ませ、一つの独立した劇としても観ることが出来るほどであった。なかでも、父親の金鉱採掘の仕事の後を継ぐためにメキシコに戻って行くモニーカとジョンのために別れの歌を歌うアビー役の中村澪がその歌唱力を魅せてくれ、大いにこの場面を盛り上げ楽しませてくれた。
 この第2話の挿話以外は小説にまったく忠実に展開していくので、登場人物がどのように演じられていくかに注意が向いた。
 渡り労働者のジョージと頭の鈍い大男のレニーの二人の主人公を演じる新本一真と鈴江幸市はイメージ通りで、そのまま小説の中から抜け出てきたような人物として感じられた。
二人の最初の登場場面と最後の場面は特に忘れ難い場面であるが、特に、最後の場面、農場のボスの息子カーリーの妻を誤って殺してしまって、ジョージに教わった繁みに逃げたレニーを追ったジョージが、二人で小さな農場と小さな家とウサギを飼う夢をレニーが乞うままに語りながらピストルで撃った後、放心状態の姿を演じた新本一真の演技がいつまでも頭にこびりついて忘れられない。
 二人の主人公以外にも本編に登場する人物を演じるどの出演者も個性的演技を発揮していたが、脇役が素晴らしいと舞台が俄然引き立つ好例としては、自分たちの小さな農園と小さな家を持つというジョージとレニーの夢に、全財産の3百ドルを託して夢を追う、右手首から先の無い老人キャンディを演じた石山雄大がなかでも秀逸であった。
 また読書家で誰よりも知識のある馬屋係の黒人クルックスを演じた側見民雄も、黒人として虐げられ、蔑まれている卑屈さの演技に、忘れ難い印象を残した。
 本編の他の出演に、農場のボスの息子で、短気な元ボクシングライト級準優勝者カーリーをアライジン、カーリーの妻を森田萌依、キャンディの老犬を自分の銃で撃ち殺す粗野な労働者カールソンを調布大、農場のリーダー格で周囲から頼りにされているスリムを千葉誠樹など。
また、カーリーの妻を誤って殺してしまってジョージに教わった繁みに逃げたレニーに、空想の中で語りかけてくる嶋多佳子が演じるクララ叔母さんと大ウサギも原作通りのイメージで視覚化されて登場したのも、最後の場面として印象に残るものであった。
この小説を読んだ以上の感動と感銘を感じた舞台であった。
 上演時間は、休憩なしで2時間15分。

原作/ジョン・スタインベック、脚本・演出/石山雄大、美術/寺岡 崇
8月1日(木)14時開演、シアターグリーン・BIG TREE THEATER、
チケット:5000円、座席:B列7番


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