高木登 観劇日記2019年 トップページへ
 
    世界でいちばんちいさな劇場  No. 73 
    吟遊詩人・条田瑞穂の連続創作詩劇朗読 ―戦争と平和―       
No. 2019-021
 

 共演のサックスと琵琶の演奏はリハーサルもなく、開始直前の打ち合わせだけでいきなりのスタートであった。
 第一部は、『ペルソナ・幻―仮面の街』ではサックス単独で、続く『歌う河』を琵琶演奏、そして3番目の『五月に、あるいは迷い鳥』と4番目の『甘い孤独―蝉しぐれ』をサックスと琵琶のコラボで詩の朗読に共演。
 「真実の壺」を届けるために駱駝のキャラバン隊が、靖国通り、かむろ坂、青梅街道を通り抜け、都庁を目指して進む『仮面の街』の朗読では、参議院銀選挙の真っただ中の今、皮肉な諧謔性を感じた。
 『五月に』は、条田が感銘を受けたという百年前の詩人、タゴールが日本に来た時、着いた横浜でふわりと迷った鳥を見て詩を作ったという、そしてタゴールは、戦争へと突っ走っていく日本の姿を見て悲しんだという、そのタゴールの詩を読んだ条田はこんな美しい魂を持った人がいるんだと感動したという。その百年前の詩人の詩を読む条田とこれから先百年後の詩集を読む人は誰か、そのとき、人々は幸せであろうか、世の中は平和であろうかと問いかける。
 『蝉しぐれ』でこころに残る言葉のかけらは、「夢のかけら」、「世界の沈黙」、「夏の始まりと命の終わり」、そして「世界はこんなにも悲しみに満ちている」であった。
 第二部では、最初の『メビウスの輪』だけがサックス単独での朗読に共演、後の4篇はサックスと琵琶のコラボでの共演。
 サックスの音から始まった「メビウスの輪」では、天空から吊り下げられた小さなマリオネットの踊る音、タカタン、タカタンのリフレインにサックスが追随し、空が落下し、世界が逆しまにぶらさがっているという詩の言葉に、色を感じさせた。
 2番目の『戦場の蝸牛』は、地雷を踏んで両手両足を失った9歳のアブード・ハッサンを唄い、その光景が映像となって目の前にリアルに浮かんでくる詩である。世界のすべてが停止し、すべてが少年の目の前から消えていく。もう走らないでいいんだよと言って、蝸牛がハッサンの目の前を通り過ぎて行く。ハッサンは一千一秒の眠りを眠る―僕はもう夢はいらないと・・・・・
生きるをテーマにした『風の行方』では琵琶の演奏から始まり、サックスが後に続く。遠い異国の戦場で戦死した23歳の詩人、帰る場所がどこにもなく、それでも生まれたからには生きなければならない、それが人間の務めだとその若い兵隊詩人は唄う。
昭和に生まれ、昭和で育った条田は昭和を唄うことが自分の務めだと、昭和の森繁久彌の朗読ラジオ番組『エンジェルアワー』をテーマに、北原白秋などの童謡を詩に唄う。
最後の詩は『銀の月』。琵琶とサックス奏者の大石俊太郎が不思議な音の演奏に続いてサックスの演奏。
 第一部、第二部を通して、この日の詩のテーマは「戦争」と「平和」、そして「生きる」が貫かれていた。
 いずれの詩もこれまでに何回も聴いているのだが、共演の音楽で印象がいつも異なり、初めて聴くようなフレーズをそのたびに発見させられ、今回もその言葉のかけらを拾い集めた。


作詩・朗読/条田瑞穂、共演/(琵琶)尼理愛子、(サックス)大石俊太郎
7月12日(金)19時開演、阿佐ヶ谷・喫茶ヴィオロンにて、料金:1000円(ドリンク付き)


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