高木登 観劇日記2019年 トップページへ
 
    得丸伸二のTBスタジオ第5回公演 『探偵物語(京都編)』       No. 2019-019
 

構成も内容も非常によく出来ていて、わくわく感を感じながら楽しんで観ることが出来た。
 TBスタジオ主宰者の得丸伸二が実際に還暦を迎え、彼のオリジナル作品『探偵物語』シリーズ第3作目として、還暦同窓会を物語の発端にしての物語。
 京都での中学の同窓会で30年ぶりに故郷の京都に帰って来た探偵・工藤が、同級生の中3トリオの3人の女性から、20年前に行方不明となって消息の知れない同級生だったカジコウの探索を依頼される。
 依頼者の一人、美智子は工藤の初恋の人で、死んだ夫の不動産会社を経営して羽振りもよく、金銭面は彼女が一人で負って、100万の手付金を気前よくその場で工藤に支払う。
 喫茶店「祇園精舎」を打合せ場所にして探索が進められていくが、主筋以外の脇の話がまた面白い。
 喫茶店のアルバイト学生と工藤との会話の中では、柿本人麻呂の暗号の話やそれに関連する梅原猛の著書『水底の歌』や、渡来人の万葉歌人秦氏がイエス・キリストまでつながる話、また尼僧になった同級生の一人、寂集の一休についてのエピソードの講話話、そして探偵物語にふさわしい暗号の話など、含蓄の深い挿話が盛りだくさん、ぜいたくに盛り込まれていて、特に万葉集に興味を持っている自分にはとても興味深い内容であった。
 肝心のカジコウの探索も、過去をたぐっていくことで、バブル崩壊や、ずっと昔の戦後間もないころの話まで出て来て、歴史の一コマ一コマを振り返させる懐かしさも加わり、カジコウの家族の過去までが少しずつ明らかにされていき、ついにカジコウの消息が明らかになる。
 中国人に買い取られそうになった喫茶店「祇園精舎」も美智子が競売に競り勝ち、フリージャーナリストの猫カフェも老人ホームと抱き合わせにすることでめでたく生き残り、工藤も離婚した妻からの要求、娘の海外留学費用の300万円を美智子から謝礼として受け取ることになり、すべてが丸くハッピーに収まって、観終わった後も、気分爽快で、心楽しくなる劇であった。
 出演は、探偵・工藤に得丸伸二、美智子に槇由紀子、寂集に宮坂公子、ほか、元祇園の花柳界の帝王といわれたピータン、定年退職した元中学教師、カジコウの会社の元社員、フリージャーナリスト、喫茶店「祇園精舎」の学生アルバイトの役として、内山森彦、蒔村三枝子、小野田由紀子、水落磨樹、花美えりぃの8人。
 得丸伸二のTBスタジオ公演については、以前にも出演者の槇由紀子さんから案内をもらっていたが、タイミングが合わず今回初めて観ることができたことで前2作を観ることが出来なかったのが残念に思われた。
 上演時間は、休憩なしで、1時間50分。


作・演出/得丸伸二
6月30日(日)14時開演、TBスタジオ(志茂)、チケット:3800円、全席自由席


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