高木登 観劇日記2019年 トップページへ
 
    劇団月のシナリオ旗揚げ公演 『傑作 牡丹燈籠』          No. 2019-015
 

重厚で濃密な演出と構成の面白さに加えて、出演者の人数と多彩さで、3時間に及ぶ上演時間もその長さを感じさせることなく、飽きることがなかった。
開演とともに客電が落ちると、手に燈明を持った30余名の出演者全員が客席通路を通って舞台へと上がっていく。
舞台の上で、彼らのしばらく無言のざわめきが続く。
この物語のすべてが終わった後再びこの光景が繰り返され、舞台上での彼らの無言のざわめきが嘆きの声であったことが伝わってくるが、最後は、だれもいなくなった舞台の上に残された燈明の明かりが、最初に半分ほど消え、暫くしてまた残りの燈明も消え、1本だけ明かりがついたまま残されて幕となる。
この円環的な終幕が、劇の余情を掻き立てる見事な構成であった。
18場に及ぶ物語の展開を、「燈籠の灯」と「牡丹の華」の二人の精霊が舞台の上手と下手に分かれて鎮座し、語り部として18名の出演者が場面ごとに入り替わり立ち替わり語っていく趣向となっており、そのつなぎとして合間合間に中央の座敷舞台で物語の一部が演じられ、原作の落語を聞く思いとともに、視覚化された物語を楽しむことが出来るような構成となっている。
実際に登場する人物以外にも台詞の中で多くの人物が登場するため、その人間関係が頭の中でなかなか整理がつかないが、休憩時間にプログラムの相関図で改めて確認する。
『牡丹燈籠』と言えば怪談噺と直ぐに思い浮かべるのだが、実際の物語では二重三重に事件が盛り込まれていて、物語も錯綜して展開していき、そこにスリルとサスペンスを感じるだけでなく、人間ドラマとして壮大なスケールを感じさせ、一筋縄ではいかない複雑なドラマであることを改めて思い知ることになる。
構成・演出の清家栄一が、プログラムの中で圓朝の『牡丹燈籠』を「和製シェイクスピア」と称しているが、この複雑な人間模様を紡ぎ出す「言葉のドラマ」はまさにシェイクスピアと言っても過言ではない。
3時間という長丁場を演じる出演者はプロの俳優ではなく、趣味で演劇を楽しみたい普通の主婦であったり、会社員であったりであるが、素人とは思えない本格的な演技と台詞力に感嘆させられた。
プロの俳優で特別出演の白翁堂勇斎役の角間進と主役格の伴蔵役の清家栄一は別にして、女中お米を演じた渡邊敦子、山本志丈を演じた山本秀明、おりゑを演じた東遥などが、魅せる演技を楽しませてくれた。
この『牡丹燈籠』は昨年、文学座の公演でも観たばかりで両者の違いを楽しむことができたが、「劇団月のシナリオ」に、より大きなスケールと多彩さに感動した。
出演者の数も多いことから、一部両方のチームとも出演する者も多々いるが、A,、Bの両チームに分かれての上演で、自分が観劇したのはBチーム。
上演時間は、途中15分間の休憩をはさんで、3時間。


原作/三遊亭圓朝、構成・演出/清家栄一
6月2日(日)11時30分開演、武蔵野芸能劇場、全席自由席


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