高木登 観劇日記2019年 トップページへ
 
    劇団伍季風~モンスーン~第16回公演 『ERROR』          No. 2019-011
 

今回が3度目となるモンスーンの公演観劇、これまで観た最初の作品が『PRISON』、次が『CRRIME』であるが、共通した特徴としては、まずタイトルがいつも横文字であることと、密室あるいは限定された一つの空間での出来事、そして犯罪に関連した出来事を扱っており、サスペンス的なスリルを感じさせる中に、ユーモラスなものを含んでいた。
今回も密室の中の出来事であることと、サスペンス的スリル感のある点では共通している。
暗闇の中で9人の男女が眠っている中で、一人だけ下手の舞台端で立っている男―そして一人の男が目を覚まし、やおら起き上がってあたりを見回し、階段を見つけ昇って行くが、出口は閉ざされている。
男は階段の踊り場に置いてある箱から何か書かれた紙きれを見つけ、それをポケットにねじ込む。
やがて一人ずつ目を覚まし、自分たちがどうしてそこにいるのか、またどうしてそうなっているのか思い出せない。
彼らは、元野球部員のマネージャーであった久美子の葬式に来て、焼香を済ませた後からの記憶が抜けていることに気づく。
彼らはその野球部員とマネージャーであったが、ひとりだけ見知らぬ顔があり、彼女は亡くなった久美子の妹で、彼らがそこに閉じ込められているのは姉久美子を殺した犯人をつきとめるためであり、その犯人が見つかるまでそこから抜け出せないことを告げる。
久美子は交通事故で亡くなっていることは警察の調べでもはっきりしているにもかかわらず、彼女は犯人が見つからない限りそこから抜け出せないという。
彼らはそこで話し合いを余儀なくされ、20年前の野球の試合でのエラーのことを追求していく。
野球部員の中で一人だけその密室の中にいない人物がいるが、それがその時の試合でエラーをしたライトの成瀬で、彼と久美子は葬式の当日が結婚式となるはずであったことが、妹の口を通して分かる。
野球の試合に負けたのは成瀬のエラーが元であったが、彼らは話し合いの中で互いにその責任の一端は自分にもあるとお互いをかばい合う。
しかし、勝っていた試合を成瀬のエラーがもとで負け、甲子園出場とプロの夢を絶たれたピッチャーの須藤は成瀬がどうしても許せず、試合後、彼は成瀬を殴り、そのために野球部は休部となってしまい、そんなことから彼らの関係は気まずくなり、20年間互いに会っていないのであった。
須藤はその試合後、自暴自棄となって世界各地を放浪してまわり、死に場所を求めて傭兵にもなったが、結局死にきれないままでおり、そんな中でも部員の長久保とは連絡を取り合っていて、部員の消息の情報は入っており、久美子の葬式も彼を通して知ったという。
久美子の事故の日、結婚式を祝って長久保と成瀬、久美子の3人で川べりのレストランで食事をすることになっていたが、それを長久保にセッティングさせたのは実は須藤であることが追及されていく中で明らかとなる。
須藤は、久美子の事故は車を運転している彼女にレーザー光線を使って発作を起こさせたことを白状する。
箱の中の銃には2発の弾が入っており、久美子を殺した犯人は二人であることが示唆されており、その箱の中に入っていた紙には「犯人は二人」であることが書かれていたのである。
須藤が久美子を殺したのは、彼が野球部のころから彼女を愛していて、その彼女が自分の運命を変えた成瀬と結婚するということが許せなかったからであった。
長久保も須藤に協力したことで犯人の共犯者として死ぬ運命となり、須藤は長久保を撃った後、自分もその銃で自殺する。
こうして一同は無事その密室から出て行くことが出来るのだ、が話はそこで終わらず、当の成瀬がその密室に入って来て、須藤に起き上がるよう命令する。
一発は空砲であったのだった。
成瀬の手には拳銃が握られており、須藤は成瀬に「お前に殺されなければならない」と言って二人は向き合う。
暗転のあと、拳銃の音が二発。
この劇の見どころは、試合でのエラーを通して犯人捜しのため互いに触れたくなかった過去の苦い思い出を語っていく中でのそれぞれの人物の台詞にある。
物事を客観的に冷静に見つめているようでいて、本音は胸の中にしまい込んでいる宮崎を演じる栗原智紀の台詞とその演技、野球部の中では一番後輩である森を演じる霍本晋規、サードでキャプテンだった北出を演じる岡本高英、クールでニヒルな役回りの須藤を演じる菊地真之のキャラの演技がそれぞれに興味深く、またキャッチャーの山田を演じる調布大には、この緊張した舞台にユーモラスな雰囲気を感じさせるものがあり、それぞれが個性的な演技のアンサンブルで、人間模様とスリルを十分に味あわせ得てくれた舞台であった。
出演は他に、ショート黒沢役に横澤英一、長久保には稲村恵太郎、成瀬に山下健太、元マネージャーに北川トモミと渡邉千奈津、久美子の妹役に小島亜里沙。
上演時間は、90分。


脚本・演出/栗原智紀
4月28日(日)13時開演、下北沢・Geki地下Liberty、料金:2800円、全席自由席


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