高木登 観劇日記2019年 トップページへ
 
   新国立劇場公演 『かもめ』                  No. 2019-010
 

新国立劇場として初めてフルオーディションによるキャステイングでの公演。
応募総数は3000人を超え、直接会った人数だけでも860人を6週間かけての選抜であったとプログラムにある。
久しぶりのチェーホフの舞台で、『かもめ』も長いこと観ていなかったので楽しみでもあったが、劇場内に入って目に入ったのが、舞台装置の鮮やかなグリーン。
舞台の両側の上方には、大きな木の太い枝が緑の葉が光に照らされ鮮やかに舞台中央に向かって垂れさがっている。
舞台後方には湖が広がっているという想定で、これから始まろうとするコンスタンティンの劇の為に幕がひかれている。
前方は湖を前にした庭で、一面が緑の絨毯のようで、両側と舞台前方に野の花が美しく咲いている。
これらの舞台美術にまず魅入らされ、これから始まる劇への期待感が高まった。
これまで英語台本では小田島雄志訳によるマイケル・フレインの英語台本による上演は観たことがあるが、トム・ストッパードの英語台本というのは初めてで、翻訳者は新国立劇場演劇芸術監督の小川絵梨子。
これまで観てきたチェーホフ劇の多くは、けだるい悲劇的様相を帯びた曖昧さのある上演が多かったというのが自分の印象であるが、今回、チェーホフが言うところの喜劇性を強く感じるものがあった。
プログラムの中で、演出の鈴木裕美と芸術監督の小川絵梨子の対談に、この戯曲のタイトルにある「喜劇」を強調せず、書かれているあるがままに演出したとあるが、それがこれまで観てきたチェーホフと異なって感じたのは、トム・ストッパードの英語台本によるものかどうか、また翻訳による差であるのかは分からない。
劇中、原作にはないシェイクスピアの劇の台詞を結構多く耳にしたのは、『ローゼンクランツとギルデンスターン』の作者らしいストッパードの付け加えがあるという。
主人公の一人であるコンスタンティンが最後に自殺することから言えば、この劇は喜劇というより悲劇であるが、それをなぜ、あえてチェーホフは「喜劇」と称したのか。
それは10人の主要な登場人物の満たされない愛の悲喜劇ともいうべき連鎖的状況の喜劇性ともいってもよいだろう。
出演は、女優のアルカジーナに朝海ひかる、作家志望の息子コンスタンティンに渡邊りょう、アルカジーナの兄ソーリンに佐藤正宏、ニーナに岡本あずさ、管理人シャムラーエフの俵木藤汰、その妻ポリーナニ伊藤沙保、その娘でコンスタンティンを愛するマーシャに伊勢佳世、アルカジーナの愛人で作家のトリゴーニンに須賀貴匡、医師ドールンに天宮良、マーシャを愛する貧乏教師メドヴェジェンコに松井しょうき、ほか、総勢13名。
それぞれに特色のある人物造形の演技でよかったが、なかでも元宝塚のトップスターであった朝海ひかるの女優のアルカジーナ役は、花のある存在感があった。
上演時間は、途中15分間の休憩を挟んで、2時間45分。


作/アントン・チェーホフ、英語台本/トム・ストッパード、翻訳/小川絵梨子
演出/鈴木裕美、美術/乗峯雅寛
4月15日(月)13時開演、新国立劇場・小劇場、チケット:3078円(シニア)
座席:(B席)バルコニー、LB列30番、プログラム:800円


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