高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   劇団俳小公演 『イエロー・フィーバー』        No. 2018-008
 

シリアスな内容の劇であるが、ハードボイルド探偵劇としてのエンターテインメントを十二分に楽しめる劇。
日本によるパールハーバー攻撃の後、太平洋側のカナダ移住民としての日本人が強制疎開させられた戦後、日本人を含む黄色人種に対する偏見と迫害をテーマにし、その深刻さをテレビドラマのコロンボ刑事風の探偵を主人公にしてその差別と偏見を克明に描き出すという筋立てで、スリルとサスペンスと少しばかりの甘い恋愛を織り交ぜて物語に膨らみを持たせている。
作者のリック・シオミは1947年生まれの日系三世で、太平洋戦争当時、カナダ政府から敵性民族として財産を没収され、僻地に強制疎開された両親の体験をもとに、1982年に書いた処女戯曲がこの『イエロー・フィーバー』だという。
桜祭りの日、日系人の若い娘が失踪するという事件が起こり、それを刑事コロンボのような風采をした日系二世の私立探偵サム・シカゼが解決していくという筋立てであるが、冒頭の場面で、シェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』に登場する予言者の言葉、「弥生15日に気をつけろ」という紙切れがサムの帽子に仕掛けられる。
サムは日系人というだけで警察学校を落第させられ、私立探偵となって場末の日本人街で困った者にただ同然で事件を解決してきて、周りからは感謝されている。
彼の同期生で同じ日系二世で無事警察官となって17回も表彰をうけているにもかかわらず、20年たってやっと巡査部長となったカドタは、日系人という理由で冷遇されてきた。
今回の日系人の若い娘の失踪事件は、実はこのカドタ巡査部長を平の巡査に降格させようとする仕組まれた事件で、その背後には黄色人種を追放しようとする「西欧文明防衛隊」という秘密結社があり、カドタの上司であるジェームソン署長がこの結社の最高責任者として扇動しており、カドタの部下の白人巡査マッケンジーもこの結社の一人であった。
駆け出しの新聞記者で中国系の美人ナンシーがこの事件を追及してサムの事務所に出入りするうちに、彼の弱い者の味方というヒーロー姿にいつしか恋するようになるという伏線が織り込まれ、ストーリー展開に色を添える。
劇中、差別され、蔑まれる日系人、それに対する白人の優越主義を見ることへの憤りを感じさせるが、翻って見る時、現在の日本の社会でも多数の外国人が居住する地域における偏見や排斥感情など、人種問題があることに気づかされる。
主演に私立探偵サムの大川原直太、自己主張の強い中国系の美人記者ナンシーを西本さおり、カドタ巡査部長に宮島岳史が実直で人の良さを好演、マッケンジー巡査の橘颯は日系人蔑視の憎々しい役を好演、サムの協力者、中国系の弁護士チャンを演じる宮崎佑介の明るさがさわやか、サムの面倒を見る日系人の食堂経営者ロージィーの吉田恭子はほのぼのと心温ませる存在を感じせ、ジェームソン署長の岡本高英は扇動者としての教祖的貫禄と台詞力で魅了、そして日本研究者ゴールドバーグの手塚耕一はちょっぴり謎の人物を感じさせ、たっぷり見応えのある好演を楽しませてもらった。それに、ちょっぴりシェイクスピアの雰囲気も加わって。
上演時間は、1時間45分。


作/リック・シオミ、翻訳/吉原豊司、演出/河田園子、舞台美術/岡田志乃
3月23日(金)14時開演、日暮里・d-倉庫、全席自由席


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