高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
   文学座公演 『真実』             No. 2018-005
 

ダブルキャストで「ボルドー」組と「シャンパーニュ」組の2つのヴァージョンでの公演で、自分が観たのは「ボルドー」組。
話の筋、内容としては単純ともいえるが、底の深いものがあり、演技次第ではいかようにもなり得る可能性のあるドラマで、二組のヴァージョンを見比べてみたら面白いだろうと思った。
物語は、親友同士の二組の夫婦が互いに不倫をしていて、それでいて親友として付き合っている。
ミシェルが勤務中に時間を盗んで親友ポールの妻アリスとホテルで逢引きをしているところから始まり、アリスが束の間の逢瀬に不満を抱いていて週末に二人でゆっくり過ごしたいということが発端となって、ミシェルはその日の重要な打合せを嘘の口実ですっぽかす。
その嘘の口実は、気分が悪いので家で寝ているということであったが、ミシェルの妻ロランスが彼に連絡を取るため彼の会社に電話すると、彼の同僚がミシェルの具合の状態を尋ねたことから嘘がばれてしまう。
ミシェルはそれから言い訳の嘘に嘘を重ねて妻の追及を逃れ、本人だけが無事切り抜けたと思っている。
人は嘘を繕うためについ饒舌になってしまい、結局、嘘に嘘を重ねてのっぴきならない状況に陥るものであるが、ミシェルがそのよい例であった。
ミシェルはそんな状況に耐えられなくなって親友のポールと会って事の次第を打ち明けようとするが、ポールが話の先を取って、ポールとロランスの不倫を知らされることになるが、聞くと二人の関係はミシェルとアリスよりも長いのだった。
ポールは今失業中で、首になった会社では財務部長だったという割には、何となく風采の上がらない、女にもてそうにない顔で、本人も自認してそのように言っている。
しかし、茫洋としているように見えて、その実、ミシェルより嘘の駆け引きは一枚も二枚も上手のようである。
ポールから妻の不倫を聞かされたミシェルは、ロランスに婉曲的にそのことを問い質すが、ポールのような顔に惚れるわけがないと言って、ミシェルがポールに鎌をかけられて騙されたのだと一蹴される。
しかし、ポールがスエーデンの会社に就職が決まってフランスでの勤務ではなくスエーデンに行くことになったとミシェルの口から聞かされて、ロランスは「そんなことは聞いていない」とつぶやき、何事もなかったような顔をしてミシェルと和解する。
嘘が一番単純ですぐにうろたえるものの、自分が言い繕った言い訳で納得させたと単純に信じ切る人物ミシェルを渡辺徹が演じ、その妻のロランスを古坂るみ子、どこまでが真実で嘘なのか底を見せないポールを斎藤志郎、ポールの妻アリスを郡山冬果が演じた。
劇中のミシェルの言葉にあるように、喜劇なのか悲劇なのか、フランス喜劇らしい、しぶみのある大人の喜劇を楽しむことが出来る。
上演時間は、休憩なしで1時間55分。


作/フロリアン・ゼレール、訳/鵜山 仁、演出/西川信廣、美術/乗峯雅寛
2月27日(火)14時開演、東京芸術劇場シアターウエスト、座席:C列21番


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