高木登 観劇日記2018年 トップページへ
 
    川和孝企画公演 第47回名作劇場、日本近・現代秀作短編劇100シリーズ
  No.95 椎名麟三作『家主の上京』& No.96 齋藤豊吉作『屑屋の神様』 
 No. 2018-029
 

今回上演の2作は、一応喜劇ということになっているが、プログラムによると、これまでに上演した94本のうち、喜劇は10本に満たないという。
今回最初に上演された椎名麟三作の『家主の上京』は、最後にタイトルロールの人物(家主)の死で終わるので、シェイクスピア劇風に言えば、むしろ悲劇、もしくは悲喜劇ということになる。
物語は、家主の疎開でその家を借りた未亡人と二人の子ども(娘と息子)のところに、ある日、突然その家主が今日やって来るという電報が届く。
未亡人は家主の事を「いい人だ」と口癖のように言っているが、家賃をこれまで一度も払っておらず滞納しているので、その催促と追立を食うのではないかと心配している矢先、家主の登場の前に、何の前触れもなくベッドを運送屋が運んできて置いて行き、一家は戸惑う。
家主が何の挨拶も説明もなく、疲れたと言って運び込まれていたベッドの上で寝入ってしまう。
その後、未亡人一家と家主の間では反目し合ったまま、険悪な奇妙な共同生活が始まる。
ある日、この家族のことを聞きつけた医学生が調査対象として、国立の調査機関という名目を盾に一家の診察調査をする。
診察が終わって帰る時、外で家主の傍白を医学生が偶然聞き、調査漏れがあったことを理由に引き返してくる。
家主の傍白の内容は、彼がその家にやって来た理由について、ある未亡人の為に渡辺崋山の掛け軸を贋物と知りながら古物商に売りつけたことで、そのことがばれることを恐れての逃避であったことが明らかになる。
医学生が、その古物商が贋物と分かっていて、たまにはそんな馬鹿なことをしたくなるものだと言っていた、ということを家主に打ち明けると、家主はそれを聞いていっぺんに気持が晴れ、元気を取り戻し、未亡人一家にその家を譲ると言って、自分は元の家に帰ろうとする。
その帰り道、医学生から先ほどの話は作り話であると聞かされ、怒った家主は医学生を家に引き戻し、打擲した後、ベッドに倒れ込む。未亡人が確認すると、家主はそのままこと切れていた、というところで幕となる。
未亡人のおどおどした台詞や所作、長女の何かにつけ「証拠」という口癖、息子の「シュシュ、ポッポー」という口癖、それに、その3人が、医学生が家主を診察する時に示す興味津々な様子など、じんわりとした笑いを感じさせ、一種の不条理劇という感じであった。
出演は、「いい人だ」と口癖のように家主をほめる未亡人の矢田きくを矢内佑奈、気の強いきくの長女静子を田中香子、一見ぼうっとした格好の長男正男を小田純也、家主の西巻要太郎を矢田稔、医学生を鎌田拓也、他に運送屋2名、近所の主婦に3名。
上演時間は、約1時間。

齋藤豊吉作の『屑屋の神様』は、怪しげなインチキ宗教団体が経営する無料療院を舞台にし、そのタイトルの所以が最後に明らかとなる一幕喜劇。
無料療院の博愛寮では、入院患者の人数を水増しして上部の宗教団体から費用を騙し取っているので、その宗教団体からの査察があるたびに失業者を雇っては人数合わせをしている。
実際の入院患者は盲目で足の不自由な19歳の少女だけで、舞台はその少女が博愛寮の責任者である主任の肩をもんでいるところから始まり、主任が少女によからぬ欲望を抱くが、そこへ寮の小使いがやって来て掃除を始めるので難を逃れたが、少女はその場の自分の危機を何も気づいていない。
その日は、また本部からの査察の日に当たって、いつものように失業者がニセ患者として臨時に雇われ、集まってくる。
療院の若い医者は、恋人である看護婦との将来の結婚のための費用を稼ぐために、良心の呵責を覚えながらも主任の不正に加担している。
本部の査察は無事に済んだものの、帳簿の調査があるということで若い医者は会計簿の改ざん作業に追われるが、恋人の看護婦から諭され、医院を止める決心をする。
主任は必死に引き留めようとするが、その最中に上部の宗教団体の幹部が詐欺容疑で検挙されたという新聞社からの電話が入り、主任は捜査の手が博愛寮にまで及ぶことを懸念して、金庫の金を持って逃亡しようとする。
失業者達は、日当を貰いそこなうことを恐れ、主任を追いかける。
盲目の少女は、その宗教団体に感謝していて心からその神様を信じていたので、行先のあてがなく戸惑っている。
寮の小使いが、その少女に自分の家に来るように言うと、信心深い彼女は彼の事を神様だと拝む。
仕事を失う小使いは、また屑屋でも始めようと言っていた矢先のことで、自分の事を神様だと言われ、「屑屋の神様」だと言って少女を抱きしめ、幕となる。
緩やかなドタバタ喜劇の中に、ほんのりとした人情味を感じさせる好舞台であった。
博愛寮の主任に根岸光太郎、盲目の少女に今井香澄、タイトルロールの屑屋の神様である小使いに女鹿伸樹、医者に藤本至、看護婦に吉澤柴月、宗教団体の有力な信徒に平山真理子、ほか失業者役に7名が出演。
上演時間は40分。


企画・演出/川和 孝、美術/岡田道哉
9月14日(金)14時開演、両国・シアターX、チケット:3000円(シニア・出演者割引)


>>別館トップページへ